トヨタリコール問題から浮かびあがったこと

多少落着きを見せたトヨタのリコール問題ですが、数年後にはビジネススクールにおける重要な教材(ケース)となることは間違いないでしょう。きっと、教授やケースライターは、手ぐすね引いてウォッチしているに違いありません。

 

今回の問題は、経営上のあらゆるテーマを包含していると思います。私が思いつくのは、以下のような点です。

 

1)トラブル発覚時の広報のあり方

2)経営トップの外部コミュニケーションのあり方(平常時含め)

3)テクノロジーが大きく変化する際の対処のあり方

4)グローバル企業における意思決定メカニズム

5)技術志向と顧客志向の両立

6)ガバナンスのあり方

7)リーダー企業と国家の関係

8)成長のコントロール

 

 

以下、それぞれ簡単にコメントしてみます。

1)トラブル発覚時の広報戦略ですが、すでに82年に起きたJ&Jの「タイレノール事件」の有名なケースがあります。さんざん研究もされてきたテーマであるにも関わらず、なぜ今回トヨタは適切に対応できなかったのか(少なくとも、そう見えたのか)

 

2)上にも関わりますが、トップの役割は、内部においては最高責任者であり、また外部に対しては企業の代表としての顔であることは間違いありません。では、どういう顔としてコミュニケーションしたいのか、どういう場面であえてトップが顔となって外部にコミュニケーションすべきかの、方針を明確にする必要があると思います。

 

3)今回のリコールの一部は、電子制御に関するものです。今朝の日経によると、リコールの原因は、03年までは製造段階のミスと、設計段階のミスが半々だったのが、04年から設計段階の比率が急増し、09年度では7割にも達しているそうです。簡単に言ってしまえば、メカ中心の車づくりから、電子制御中心の車づくりへ04年から急速に変わってきているということです。その影響は、不具合の発見・対策を打ちにくくなっていることと、ある生産現場で製造された自動車に限定されていたリスクが、設計やソフトにのって世界中で生産された自動車へリスクが広がることを意味します。今、電気自動車への進化が話題ですが、実際は04年から電子化への技術革新が起きていると考えたほうがいいのかもしれません。その事実への対応が、まだ企業に出来ていなかった。

 

4)北米においてリコールの意思決定ができないことが、対応の遅れにつながったという指摘もあるようです。まさに、組織と意思決定の問題です。それが、リコール問題においてだけなのか、それともトヨタというグローバル企業の意思決定メカニズムそのものを問題にしているのは、それはよくわかりません。

 

5)技術担当副社長の会見を見ていると、技術に対するプライドが非常に高く、それがえてして顧客をないがしろにしているとの印象を与えてしまったようです。「悪いのは技術ではなく、使い方だ」と。理解はできますが、組織全体にそのような技術偏重があるとしたら、今後も問題は続くように思います。そのくらいトヨタは、多くのあらゆる顧客を抱えてしまったことを、理解すべきではないでしょうか。

 

6)日本企業の多くは、トヨタのように内部を重視するインサイダー・システム(IS)によっています。一方、アメリカはアウトサイダー・システム(OS)です。ISが、トヨタの高品質を実現したともいえます。しかし、ISではガバナンスが働きにくいのも事実です。今回の問題は、ISの弊害ともいえるかもしれません。グローバル日本企業にあったガバナンスの仕組みとはどのようなものなのでしょう。

 

7)トヨタはビッグ3の敵失もあり、世界一の自動車メーカーになりました。ビッグ3を抱えるアメリカ国民の心情はどうでしょうか。それまで、トヨタも北米で地域貢献もたくさんやってきたでしょう。半ばインサイダーとなっていると思っていたかもしれません。でも、そう単純ではないことが、今回露見したように思います。「出る杭は打たれる」のは日本だけのことではないのでしょう。

 

8)企業成長スピードのマネジメントは、古典的な経営の重要テーマです。4,5年前、急速な海外工場立ち上げに対して、トヨタの長老達が経営陣を諫めたということがありました。しかし、世界一間近のトヨタはスピードを落とすことはありませんでした。投資家など社外からの成長圧力も強かったのでしょう。アクセルを踏むのは簡単ですが、競争している時にブレーキを踏むことほど難しいことはありません。

 

 

以上、今回はトヨタが対象でしたが、他の日本企業で同じ問題が起きたとしても全く不思議ではないと思います。このトヨタケースを、十分研究する必要がありそうです。

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このページは、福澤が2010年3月 5日 11:06に書いたブログ記事です。

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