規模が大きい企業が勝つロジック

規模が大きい方が勝つのは常識だと思われますが、そのロジックを整理することは案外なされていません。

 

規模効果(Economy of scale)といった場合、一般にマーケティング費用や減価償却費などの固定費が多くの製品に按分されることでコストが下がる効果と、バイイングパワーが強まることで原材料費などの変動費が低下し、コストが下がる効果の二つがあります。

 

また、学習(習熟)効果によって生産性が向上し、コストが低下することも広い意味では規模効果です。

 

さらには、範囲の経済性(Economy of scope)も効きます。コンビニチェーンの配送を考えたとき、トラック一台に1品種を載せて周るよりも、10品種を載せたほうが効率的に決まっていますね。つまり、品数の幅(範囲)が広いほうが資源の有効活用ができるため、範囲を広くできる規模を持つ企業のほうが有利なのです。

 

ついでに言えば、ネットワーク経済性も規模が大きいほうが効きやすいでしょう。またコンビニの例でいえば、ある狭いエリアにドミナント出店することで、配送ルートが効率化し、一店当たりの配送コストは安くなります。これは必ずしも企業規模ではありませんが、一定範囲内での規模(店数)が重要という言い方もできます。

 

ここまでは、これまでも盛んに規模を正当化するロジックとして語らてきたことです。ここに、「学習の経済性」を新たに加えたいと思います。

 

先に述べた学習効果は、生産従事者やサービス提供者などの個人が、習熟により技能を高めることを想定していました。そういう熟達者が増えることで、企業全体の生産性が高まり、コスト優位を実現する、そういうロジックです。確かに、生産現場や小売り業や外食産業では、それも有効です。しかし、コスト削減効果はわりと速く逓減してしまうのではないでしょうか。だから、そういう現場では、正社員ではなく、アルバイトや派遣社員の比率が高い。それはそれで、理に適っています。

 

私が追加したい学習の経済性は、ちょっと違います。平均コストを下げる方に働くだけでなく、付加価値を向上させるほうにより効果を生むものです。

 

DMG森精機の森社長のインタビューが参考になります。森精機とDMG社を合併させる理由として、規模が大きくなることのメリットをいくつか語り、最後にこう強調します。

 

最後は、実はこれが最も重要なんですが、知恵の集積です。我々は現在、月に約1000台の機械をお客様に納品しています。一方、多くの競合相手は50台くらい。我々は月に1000の現場での最新事例を勉強えきるのです。(中略)我々の場合、日本や中国はもちろん、欧州全域、米国の最新事例までも知ることができます。この差は大きい。

 ここで言う知恵とは、部品の材料、加工方法、使用している工具やソフトだけではありません。世界中に散らばる我々のサービス担当者がお客様の元に行くので、工場で働くワーカーの質やホストぶり(顧客の迎え入れ方)までも学ぶことができます。(日経ビジネス 2015.05.25

 

これは、同社が工作機械メーカーだからではありません。今の時代、出来合いのものを長年売り続けられる企業なんて存在しません。常に、改善、改良、新製品を出し続けなければ負けます。そのために必要なものは、出来るだけ多くの有効な情報であり知恵なのです。それらを獲得するにも、規模の大きさ、顧客基盤の広さが必要になりつつあるということです。つまり、学習機会の多さが付加価値向上に大きく効いてくる。

 

但し、条件があります。どれだけ学習機会が多いとしても、それを学ぶ学習能力が低ければ、猫に小判。DMG森精機では、組織としての学習能力が高いので、学習機会規模を求めるのだということを、忘れてはいけません。

 

学習能力X学習機会=学習の経済性

 

なのです。これは逆説的ですが、たとえ規模が小さくても、学習能力で(学習能力の高くない)規模の大きい企業に伍していくことも可能だということを示しています。学習能力Based competitionでしょうか。(東大藤本教授は、「能力構築競争」という言葉を使っています)

 

過去の規模効果は、コスト低減の方向にのみ着目していましたが、これからは付加価値向上のためのロジックを見定めていくことが重要です。

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このページは、福澤が2015年6月 5日 15:34に書いたブログ記事です。

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