経営戦略: 2010年10月アーカイブ

2000年前後、自動車業界で400万台クラブという言葉が流布しました。1社年間400万台以上生産しなければ生き残っていけないという趣旨でした。それを考慮したのかベンツがクライスラーを買収したり、大型M&Aが頻発しました。しかし、その結果はご存じのとおりで、いったいあの説は何だったのでしょうか。M&Aで儲けようという機関がしかけて、多くの企業が踊らされたようにしか見えませえ。

 

それから10年がたち再び似た様な議論がでています。今度は、環境投資には規模が必要だから、規模を追求するための合従連合を、という論調です。前回もそうでしたが、その意見に反論するのは難しいです。ただ、それを実行したときの弊害をどれだけ真剣に考えたのかとの、チェックは必要です。ある論調が神話化して、一人歩きを始め、誰も疑問を持たなくなり、あとは「赤信号みんなで渡れば怖くない」となっていきます。かつての日本の土地神話もそうでした。ライブドアによるニッポン放送買収騒動の頃、多くの大企業が一斉に買収防衛策を導入しましたが、これも神話に踊らされた例だと思います。冷静に考えれば、そんな経営者を守るルールのある会社の株式は、投資家からすれば投資対象から外すはずで、従って株価は下がるはずです。その後、防衛策を廃止する企業が増えていることがそれを証明しています。

 

話を自動車業界に戻しますが、400万台クラブ騒動の時も独自の道を歩んだホンダは、現在何を考えているのでしょうか。以下のように伊東社長はインタビューに答えています。

 

提携は否定しない。ただ、最も大事にしたいのは提携先で

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はなく、お客様だ。それには絶対にホンダに対する誇りや忠誠心が必要だ。例えば、販売量の拡大を狙い、異なる2社が提携し販売網を相互に活用す

るとしよう。だが、販売店が愛着もない他社の商品を本気で売るだろうか。(中略)偉大なる中小企業を目指す。(中略)この厳しい時代、日本の企業もトップがもっと強い意志を示すべき時が来たと思う。

 


卓見だと思います。妙な神話に惑わされず、自社のあるべき姿を追求する。それがトップの責任だ。こういうトップがいる企業こそ強い企業だと思います。それに比べ、神話に踊らされ右往左往するトップがいかに多いことか。

予期せぬところから探していたものが見つかったときほど、嬉しいものはありません。たまたま古本屋で手にした「やきもの談義」(加藤唐九郎、白洲正子 著 1976年)は、そんな本でした。やきもの談義
白洲 正子 加藤 唐九郎
4833131021

 

加藤唐九郎はもはや伝説的な陶芸家であり、彼と白洲の対談なので、面白そうだとは思いましたが、想像をはるかに超える面白さ。話題がものすごい勢いで広がり、しかもそれぞれが異様に深い。そういう対談です。

 

例えば、加藤が戦略論を語っています。なんと彼は、昭和9年に陸軍参謀部の委員として、「日本戦史」の改訂に関わっているのです。そこで、戦略を学び「それから僕はだいぶ変わっちゃった」そうなのです。

 

戦争というもの、軍隊というものと政治というものと、経済、政治、文化というものは皆同じものであると。それが結局ね、戦争というものは戦術によって勝ち負けが決まるものであると。しかしそれに応えていくように決定するものは、戦略であると。

 

戦術というのは兵器が変わるたびごとに変わる。戦略というものは永久に変わらないものである、政治、経済、文化であると。戦術は軍隊でやっていけるが、戦略とは一般庶民と繋がっていかなければ出来ないものであるというふうに書いておるんです。

 

加藤は、利休を重用したり、美濃を開拓したくさんの窯を開かせたり、楽市楽座を実施したりと、文化・済政策を整え全国統一事業を推し進めた信長を絶賛しています。陶芸家の発言とは思えません。

 

経営戦略でも同じです。「いい製品を作れば売れる」では、単なる戦術です。いい製品が生まれ続けるインフラを、簡単には揺らがないインフラを社内においても、社外においても構築することが戦略だと思います。あらゆるところに強さの基盤となる関係性を築いておくのです。強い企業は、そういうインフラを備えています。

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