国立能楽堂で狂言の会を観ている時のことです。最後の演目でした。能も狂言も、最後の動きが終わると、静寂がおとずれ、そのまま演者は橋掛かりを静かに歩いて舞台から去ります。この静寂が特徴とも言えます。その日も、最後の動きが終わりました。
その時です。正面席後方あたりから、電子音で「オワリノジカンデス。オワリノジカンデス。オワリノジカンデス。・・」と繰り返し聞こえてきました。一瞬、何が起きたのかと、観客全員が思ったことでしょう。確かに、舞台はちょうど終わりを迎えた瞬間でした。
一瞬、能楽堂では、終演の合図を流すようになったのかと、頭をよぎりました。しかし、すぐに否定しました。そんなことはあり得ない。そう、一瞬混乱したのです。すぐに、携帯電話のアラーム音だと気づきましたが。
もし、電子音がコトバではなく、ブザーみたいな明らかなアラーム音だったら、ここまで混乱せず、「ちぇ、まったく」で済んだように思います。個人的にはダメージは、今回の「オワリノジカンデス」のほうが断然大きかったです。おかげで、せっかく素晴らしかった舞台も、最後の最後で醒めてしまいました。
間接戦略論で有名なリデル・ハートは、「戦略とは、予期せぬ行動によって敵を攪乱し、反撃する力を破壊すること」としています。正面から妨害するよりも、混乱させるほうが、はるかに大きなダメージを与えることができると、今回身をもって実感した次第です。
公演会場では、携帯電話はマナーモードでなく電源を切りましょう。