経営戦略: 2010年9月アーカイブ

神戸大学にいらした吉原英樹教授(現南山大学教授)は、戦略の本質を『ばかな』と『なるほど』」と表現されています。

 

その時点で見れば馬鹿げた施策であっても、振り返ってみれば納得できる、というわけです。・・・「なるほど」ですね。

 

 

個人的経験に照らして言えば、90年代前半、企業における中堅層以上への教育は、その企業特有の仕組みや制度の伝授が大部分でした。もちろん専門分野(経理や技術)の教育もありましたが、対象者は限られていました。また、管理職研修という特殊な分野はありましたが、これも管理職に昇格した時点で、管理者としての心得を伝える一種の儀式の要素が強かったように思います。講師も、社内のベテランか、社外でも大学教授か功成り名を遂げた偉いシニアだったと思います。これが当時の常識でした。

 

そこに、「経営には汎用的知識やフレームワークがあり、それを研修で学ぶことができる。そして、それを教えるのは、それを使いこなしている現役のビジネスパーソンが最も適している。」という非常識で、市場を開拓していきました。多くの企業は、「本当か?教育の素人だろ」という反応でしたが、一部の企業では「もしかしたら、そうかもしれない。試してみようか」と、好意的に受け入れてくださいました。バブル崩壊によって、多くのビジネスパーソンが迷っており、新しいものを求めていた、との背景もきっとあったのでしょう。

 

しかし、今や、その考え方が主流になっています。「なるほど」を通り越して「当たり前」になっているのです。(やや行き過ぎのきらいもないではありませんが・・)

 

では、当時、私たちがそんな変化を洞察していたかというと、半分そうですが、半分はそうでもなかったように思います。ビジネススクールで学んだことが「役立つ」と感じていたので、その意味では確信がありました。ただ、役立つと感じてくれる人は、選抜者などの一部エリートかもしれないと思っていました。日本企業は、まだまだ選抜教育に抵抗があったので、市場性は正直それほど大きくないとも思っていました。

 

講師についても、年功序列がまだまだ残る日本の大企業で、若くしかも教育の素人が、(若手社員ならともかく)企業の中核を担うようなビジネスパーソンを教えても大丈夫なのか?との不安はとても大きかったことを覚えています。でも、そういうアルバイトで協力してくれるような若い講師しか集められなかったので、仕方がなかったのです。振り返ってみれば、顧客はそれを受け入れてくれ、またビジネスとしては講師に支払う費用を変動費化できたわけですから、うまくいきました。成長が軌道にのってからは、「なるほど、うまくやったな。」と言われたものです。

 

今も、見えないところで社会は少しずつ変化しているはずです。今認識している常識も、もしかしたら現実とはずれているかもしれません。それをいち早く見つけて、先手を打つことこそ、経営の醍醐味だと思います。

組織には求心力が必要です。では、何が求心力になるでしょうか?ひとつは、「リーダーの徳」でしょう。古来の中国や日本のリーダーには、徳が最重視されました。劉備しかり、西郷隆盛しかりですね。しかし、何事も属人化してしまうと、永続性がありません。

 

そこで、教科書的に言えば「理念」や「ビジョン」となります。でも、理念やビジョンで結びついた組織って、どのくらいあるいでしょうか?特に大企業で。思い当たる企業名をあげられますか?J&Jのクレドなど有名です。行動規範や意思決定の基準としては、機能していると思いますが、それが求心力となっているかは、また別でしょう。

 

個人的には、理念やビジョンのような崇高なものには、なかなか多くの人々を動かす力は生まれないのではと感じています。宗教なら別ですが、ビジネスにはありがたすぎて、エネルギーにならないのです。

 

では何があるか。社員がつい口に出してしまうような、キャッチフレーズではないでしょうか。それは、理性より感性に訴えかけるものです。

 

思いつくものを挙げれば、以下のようなパターンがありそうです。

・仮想敵を作る:「打倒キャタピラー」(コマツ)、「シェアNo.1奪回」(キリン)

・同業他社との質的違いを宣言:「ファッションの伊勢丹」、「わけあって、安い」(良品計画)

・独自の生き方を訴える:「海軍に入るより、海賊であれ」(アップル)

 

 

結果的に、上記のようなフレーズは社員を奮い立たせ、そんな雰囲気(文化)に魅かれて顧客が付いてくるのかもしれません。ただ、重要なのは、それらが気に入らない(潜在的)社員や顧客もいるということです。八方美人のためのフレーズではないのです。

 

日本人は、このようなベタなスローガンが大好きです。かっこいい理念や精緻な経営戦略よりはるかに求心力や羅針盤となり、エネルギーを生み出すと思います。

 

 

恩師でもある嶋口充輝慶応義塾大学名誉教授は、それらを「アンビション」と定義しています。まさに、大志です。また。ミンツバーグは、戦略創造の観点から、「アンブレラ戦略」と言っています。わかりやすいスローガンの傘のもとに、現場から新しい戦略が生み出されてくるのです。

 

こういう、あいまいですが、人の感情に訴えかける言葉の力を、再認識すべき時に来ているように思います。

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