経営戦略: 2010年4月アーカイブ

「うちの会社は、戦略がないからだめなんだ。」というぼやきは、居酒屋に行けば必ずといっていいほど耳にしますよね。

 

では、その人が言っている戦略とは何を指しているのでしょうか?戦略がないと、どうなってしまうからだめなのでしょうか?

 

戦略という言葉ほど、頻繁に使われるにも関わらず、その定義があいまいな言葉もないように思います。考えてみれば、不思議な言葉です。

 

元海上自衛隊幹部だった方から、こんな話を伺いました。

 

「もう大分前のことになるが、アメリカ海軍の将校が自衛隊をおとずれた際、日本で戦略を教えている大学はいくつくらいあるのかと質問された。日本には戦略を教える大学などないと答えると、随分驚かれた。今になって思えば、確かに不思議だ。日本には、戦略は必要ないということなのだろう。」

 

日本から戦略の必要性をなくさせた(なくしてくれた)のは、アメリカといえるでしょうから、皮肉な話でもあります。

 

さて、私自身、経営戦略を講師として教えたこともありますが、戦略の定義を明確に言えないもどかしさがありました。ちょっときっかけがあり、ここのところ経営戦略について本を読み返したり、考えたりしています。

 

 

最初の居酒屋の話に戻りますが、「うちの会社には戦略がない」といったサラリーマンが言いたいことは何でしょうか?

    一貫した方針がない

    方向性やその先のビジョンがない

    他社との違い、ユニークさがない

    どこで/何で勝負するのか見えない

とまあ、こんなことをまとめて「戦略がない」の一言で表現しているような気がします。

 

では、戦略がないとどうなってしまうのか?

    判断基準が定まらず、どう動いていいか自分では決められない

    会社がどこに行ってしまうのか、この先ずっと存続できるのか不安

社員にとっては、この二点が気になるのではないでしょうか。

 

ところで、戦略は、意図的につくれるものなのでしょうか?そうだとして、誰がつくるのでしょうか?どうやって?

 

当たり前だ、戦略は社長や経営企画部門が知恵を絞って策定するのだ、とおっしゃるかもしれません。

 

先日、スズキがインドで自動車生産年間100万台を達成しました。82年の参入から28年経過しています。大変な先見の明であり、素晴らしい戦略的判断だったといえるでしょう。どれだけ緻密な分析と予測に基づき参入を決めたのでしょうか。鈴木社長の弁、ちょっと長いけど引用します。

スズキ.jpg 

 1982年4月、インド政府とレター・オブ・インテント(基本合意書)を交わすために初めて訪れるまでは、インドという国には、大げさに言うと「壺から出てきたコブラが音楽にあわせて踊る蛇使い」程度のイメージしか持っていませんでした。

 実際に飛行機を降り、街に入ると、東京の銀座のような中心街に牛がのっそのっそ闊歩している。想像以上の街の姿に「おいおい、本当に大丈夫かなあ」と、不安を覚えたものです。

 そもそも、インド進出を決めた時も、成功する確証なんてありませんでした。当時、大手メーカーさんはどんどん欧米に進出する中で、軽自動車が主力のスズキは出ることができず。悔しくて、「どこかで一番になりたい」との思いを強く持っていた時に、舞い込んだインド政府との合弁事業の話に積極的に乗ったというのが正直なところです。

 当時、インドはアメリカにもソ連にも距離を置いていて政治的にバランスが取れた国で、国土が広く、人口が多い。おぼろげですが、市場として成長するのだろうという感覚はありました。ただ、どれも確たる証拠にはなりませんでした。

 しかし実際にインディラ・ガンジー首相とお会いすると、なぜだか体の奥から「この無の状態からやってやろう」というファイトが、むくむくとわいてきたのです。若い時にアメリカ駐在で孤軍奮闘しましたが、その時の100倍、200倍の苦労が待っていても、やり抜こうと覚悟した思いでした。 (日経Web刊より)

 

「戦略」のイメージとは、程遠いと思いませんか?あらためて、経営戦略って何なんでしょうか?

いよいよアップルのiPadがアメリカで発売されました。これまでキンドルを中心としてきた電子書籍市場は、どう変わっていくのでしょうか。

 

新たな市場を開発するには、プラットフォームの確立がポイントになります。今朝の日経にこんな記事がありました。

 

電子書籍の拡販を狙うアマゾンはiPadでキンドルの電子書籍を読むためのソフトを無料配布している。パソコンと連携し、購入した電子書籍を途中から別の機器で読むことも可能だ。

 一方、iブックス対応の電子書籍はiPad専用。iPad購入者の大半は映画やゲームに使い、書籍を主用途とみていないためで、アップルはiPadへのアマゾンのソフトの搭載を認めるが、それもあくまでiPadの販売を上乗せするのが目的だ。

 

 

iPadでは、アマゾンのキンドルで購入したコンテンツ(電子書籍)が読めるが、キンドルではアップルのiBookで購入したコンテンツは読めないということになります。つまり、アップルはハードとしてのiPadを魅力的にすることを最優先し、コンテンツ販売はその手段とみなしている。一方、アマゾンは、ハードとしてのキンドルより、電子書籍コンテンツ販売を最優先しているとみることができそうです。双方のオリジンを考えれば、当然ともいえる棲み分けとなりそうです。

 

かつてのデファクト競争のような、排他的動きはしていません。アップルとアマゾンが、それぞれの強みを活かしながら、連動して電子書籍市場を開発していくという構図です。現在は、両社がリードして電子書籍の生態系づくりが始まったところといえるでしょう。

 

そうなると、関連する他のプレイヤーがどう関わっていくかが気になるところですね。まず、出版社、書店、そしてメディア業界。あと肝心なのは、著者の関わりです。

 

キンドルでは、印税7割でコンテンツが販売できるそうです。知名度の高い著者にとって、出版社は不要になるかもしれません。個人で編集者や校正担当を雇い、ネットで販売すればよくなるのですから。

 

しかし、本当の編集機能や目利き機能は、コンテンツが増えれば増えるほど必要性が高まります。それは、現在乱立する書評ブログ/サイトとは別の形態になるような気がします。では、どんな形になるのでしょうか?

 

いずれにしろ、新しい生態系が発生し進化を遂げるプロセスに立ち合えることは、素晴らしいことです。これからが楽しみです。

 

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