先日、今話題の「フリー!」を読みました。読みながら、いろいろ自分のビジネスのことを考えさせられる好著でした。優れた本は、常に読者への問いかけを含んでおり、新たな知識による刺激とリフレクション促進で、頭をフル回転させます。想像力を掻き立てられる、これが最高のエンタテイメントだと思います。
文芸春秋の今月号で、敬愛する塩野七生さんが、最近のユニクロ現象について書いています。それなりの品質の商品を安く購入するユニクロ減少は、ブランドの本場イタリアでも顕著だそうです。それについて、塩野さんは嘆いています。ユニクロ的商品が人気なことにではなく、若い人がホンモノの高級品に興味をなくしていることにです。
もちろんホンモノは、値段が高くそうそう買えるわけではありません。しかし、ホンモノは想像する喜びを与えてくれるというのです。彼女いわく、高級バッグを買うにも数日熟考し、その間いろいろなことを考えます。買った後も、それをどの服とコーディネイトするか、どんな場面で使うかなど、部屋に置いたバッグを眺めながら、いろいろ想像するのだそうです。
想像力は筋肉と同じで、使わなければ落ちてしまう。だから、落とさないためにもホンモノを身近に置くことが大切なのだそうです。機能重視のユニクロ現象が、国民全体の想像力を低下させることを危惧しているのです。
彼女いわく、出版の世界でも同じことが起きているとのこと。彼女の著作は、膨大な時間と調査の手間をかけているので、高額にならざるを得ないそうです。だからこそ、高い本を買っていただく読者に報いるためにも、全エネルギーを注いで執筆している。知的想像力を刺激する作品を生みだすことは、並大抵のことではありません。
最近は、「しゃべってさえくれれば、700円の本を出せますよ」と誘う出版社もあるそうですが、絶対に気力があるうちはそんなことはしないと断言されております。そこに彼女の矜持を感じます。
アトム(物質)からビット(ネット上の情報)へ、世界の重心が大きくシフトする時代において、想像力がますます重要になってくることでしょう。しかし、ファッションや本だけでなく、あらゆる分野で、想像力を刺激するモノは減少している気がします。このギャップに、どう対処すべきなのでしょうか。