経営理念を活性化させる「ラーニング」

先週の金曜、東大中原准教授が主宰するLearning barで、三井物産株式会社人事総務部の渡辺雅也さんの「組織文化を変える ~経営理念の浸透~」というお話しをうかがいました。同社が、2002年国後事件や2004DPF問題といった発端とした危機に、組織の面からどのように立ち向かったかという、非常に興味深いお話しでした。

 

一言でいえば、社員ひとりひとりが自分にとっての「良い仕事」を見つめ直そうという運動でした。

 

タイトルこそ経営理念の「浸透」ですが、私は「活性化」のほうが相応しいと感じました。浸透には上から下へ徐々に伝達するというイメージがあります。創業者や経営者が、理念を忘れてしまった社員たちに、あらためて教育しようというスタンスが垣間見えます。そのために、社長講話を開催し、またカードを配りポスターを至るところに掲示する。一方、「活性化」とは、本来組織や個人が持っていた能力を、顕在化させる、あるいは呼び起こすことです。

 

 

いずれにしろ、理念が社員ひとりひとりのものになっていないのが、現象としての問題でしょう。まずは、それに対処しなければなりません。

 

その場合の浸透策とは、上から目線による「教育」です。言いかるならば「躾け」です。その効果は、現代の組織においては疑わしいでしょう。

 

私は、「教育」ではなく「ラーニング」をベースにするべきだと思います。教育や躾けが外から与えられるものに対して、ラーニングは内面の変化です。経営理念であれば、内面が何らかの変化しなければ、形骸化することは明らかです。

 

企業としてできることは、内面の変化を促す仕掛けや場を提供することだけでしょう。つまり、ラーニングの促進策です。

 

評価制度に経営理念をリンクさせるという、間接的に個人に働きかけるハードアプローチもありますが、あくまで間接的に過ぎません。ひとの表面的な行動は変わるかもしれませんが、意識はなかなか変えられません。

 

 

三井物産では、徹底的に個人に直接働きかける方法にこだわり、全社員が「良い仕事」を考えるワークショップに参加したそうです。そして、その前提には経営陣のフルコミットがありました。

 

 

今回の事例からわかったことは、組織として望ましい方向へ、個人のラーニングを促すには、適切な「問い」を立てることが重要だということです。「良い仕事」という問いは、下記の条件を満たしています。

 

    誰もが経験に基づき、一人称で語ることができる(うちの会社、うちの部ではなく)

    いろいろな解釈ができ、自分自身で考えることができるだけの曖昧さがある(正論だけですまない)

    社員皆が同じ目線で対話でき、その後共通言語化しうる(立場や業務の違いを超えられる)

 

当社で行ったことは、以下のようにまとめられると思います。まさに、Learning engineeringの実例です。

適切な問い→適切な対話→内省→内面の変化→行動の変化

 

トップのコミットのもとで、本気で企業がこのようにラーニングを促進させるバックアップをしたら、不可能なことはないと思います。(ちょっと楽観的かもしれませんが)

 

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このページは、福澤が2009年12月 8日 12:56に書いたブログ記事です。

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