考え抜くこと

考えに考え抜くということは、やったことがない人には、その意味が分からないものです。経営者は最終判断に責任を持つわけですから、最終的には誰にも頼ることはできません。経営判断とは、すべて正解がないわけですから、どれだけ考え抜けばそれでいいという限度がありません。だから、死ぬ気で考え抜かなければならないのです。

 

それに対してそれ以外の社員は、最後は判断を委ねる上司がいます。もちろん、自分の役割においては考え抜いて結論を出す努力をするでしょうが、最後は上司に判断を委ねる道が残されているため、自ずとブレーキがはたらいてしまうものです。

 

本音で言えば、「これだけ考えたのだから多分この判断で行くべきだろう。でも、最後的には上司の判断に従わなければならない。経験豊富な上司は、私よりも優れた判断をする力を持っているだろうから」

 

組織ではたらく人間ならば、こう思ってしまうのは仕方のないことだと思います。しかし、こういう状況であっても、どこまで突き詰めて考え抜けるかには個人差があります。私はそれを「知的強靭さ」と呼んでいます。どこまで我慢して諦めず徹底的に考え抜くことができかどうかの能力です。それは、経営者を目指すべき人には不可欠の能力です。

 

ある企業で、次の執行役員候補を対象とした研修を行っています。そのプロジェクトオーナーである副社長は、この研修でこの「知的強靭さ」の開発を狙っています。同時に、各メンバーが「知的強靭さ」をどれだけ持っているかを評価しています。より持っているメンバーを次の執行役員に抜擢したいと考えているのです。

 

もちろん、「知的強靭さ」を獲得するのは本来研修ではなく、実務の場面でしょう。修羅場体験の中で、どれだけ苦しんで考え抜き判断し行動してきたか、その経験がその人の「知的強靭さ」を育むのです。

 

しかし、そういう経験をすべからく候補者全員にさせられるとは限りません。組織の細分化が進み、成熟化とそれに付随する管理強化とリスク回避の流れの中で、そういう機会が日本の多くの企業の中で減少しているからです。

 

そこに模擬的修羅場としての研修の役割があるのです。メンバーはチームで、経営陣に新規事業提案を行います。しかし、何度も突き返されます。調査分析して綺麗にまとめることは得意なメンバーですが、経営陣の琴線にはなかなか触れることができません。経営陣から見ると、本気で考え抜いたようには見えないからです。

 

経営陣は日々本気で考え抜いているため、メンバーの本気度レベルは直観的にわかります。だから、まだまだ足りないと感じ、突き返すのです。

 

一方で、メンバーのほうは、何が足りないのかよくわかりません。不足箇所をわかりやすく示してほしいと経営陣に頼みます。しかし、経営陣にとっても、それは論理的に説明できるようなものではないのです。

 

メンバーは悩みます。「これ以上考えたって時間が過ぎるばかりだ。それよりも、まず具体的に見える小さなことから始めることでもいいじゃないか。」それが本音です。

 

メンバーは、経営陣のように本気で考え抜いた経験がないため、もっともっと考え抜けば突き抜けたアイデアが出る、とは思えないのです。それは非常に不快な状態です。フラストレーションが高まります。そこで「知的強靭さ」が試されるのです。不快から脱しようと思う人は、ブレーキをかけ考え抜くことから降ります。

 

私がこれまで見てきた中で、こういった意味での「知的強靭さ」を持つ人は、必ずしもIQのような知的レベルとは関係がありません。視座の高さとか自分を客観視できる力とか、周囲の人に配慮する力とか、逆に時に調和を壊す勇気を持つとか、そんな能力と関係が深いようは気がします。(田坂さんはそれを 「知性」 と定義していました)

 

一度、考え抜くことに成功した人は、自分の考え抜く力に自信を持つため、次からも考え抜くようになります。ブレーキが外れるのです。こうなるとグッドサイクルに入り込み、ぐんと成長します。今その分水嶺にメンバーは立っているのです。

 

経営陣は、こういった状況をわかっているため我慢して突き放しているのですが、残念ながらメンバーはわかっていません。そこがこういった研修の難しいところです。

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このページは、福澤が2015年2月19日 11:36に書いたブログ記事です。

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