考えと表現

近頃のTV番組は、なぜあれほど大きな字幕、テロップを多様するのでしょうか?耳が不自由な方向けとは到底思えません。さらに気になるのが、放送中にツイッターで視聴者から寄せられたコメントが、常時流れてくるニュースや報道番組があることです。

 

数多く番組に寄せられたコメントから、瞬時に誰がどうやって選択しているのでしょうか。もしかしたら自動的にアトランダム、あるいは早く着いた順に流しているのでしょうか。そんなことをしたら、不適切なコメントもどんどん表示されてしまうでしょうから、やはり誰かが選んでいるに違いない。でも、どう基準で選ぶのか。疑問は尽きません。

 

ただ、ひとつ言えるのは、テロップで流れたコメントは、必ず偏ったコメントという事実です。あえて、TV番組を見ながらツイッターを書く人って、どういう人でしょうか。それだけで、大きなバイアスがかかっているのは当然です。それを公共の電波に乗せることは、果たしてどのような意味があるのか。

 

表現することは大切です。表現しなければ、たとえどんないい考えを持っていても他人に伝わりません。しかし、必ずしも「表現しない人は考えを持っていない」というわけではありません。表現されなければないに等しい、という風潮があるように思えてなりません。例えば、ヘイトスピーチは一つの表現かもしれません。しかし、そこで表現されたものだけが日本人の総意とばかりに、海外で報道されたらどうでしょう。だから反ヘイトスピーチの声をあげるというのが、正しい作法なのかもしれません。でも、それには大きなハードルもあるように感じます。だって一般の人は、そこまでヘイトスピーチによって実害を受けるわけでもない。なんで、わざわざそこまでする必要があるのか。

 

つまり、「表現する」という行為には、非対称性がある。国民の意思を表現するための選挙もそうです。今のシステムでは、時間に余裕がある高齢者の「意思」が必要以上に政治に届くことになっています。

 

一方で、現在香港で起きている学生らによるデモは、バイアスのかかった「表現」によって進んでいく既存システムによる政治状況に、「表現」する手段を持てなかった学生らが、いい加減に堪忍袋の緒が切れて「正しい作法」にのっとって、自分たちができる方法で「表現」しているように見えます。

 

政治家がよく言う「民意」とは何でしょうか?多数決で測れるものでしょうか?選挙でわかるものなのでしょうか?香港の状況に比べれば、日本のやり方はまだましかもしれませんが果たして・・。

 

考えを持つことと表現することでは、どちらが大切でしょうか。批評家の佐々木敦氏は、インターネットによって「サイレント・マジョリティーが可視化される」と考えられてきたが、現実に起きていることは「ノイジー・マイノリティーを浮上させただけ」ではないかと書いています。考えをもたない人と表現をしない人は同じではありませんが、SNSの普及によって同じと見なす傾向が高まっている気がします。「表現しない人は存在しない人」とでも言わんばかりに。このような息の詰まる社会になりつつあるのではないでしょうか。

 

企業における人の能力についても、同じようなことが言えます。

・能力(ポテンシャル含め)のある人とない人

・能力が表現されている人とされていない人

日本企業が得意としてきたのでは、能力がない人なんてほとんどいないとの前提のもとに、能力があるけれどもそれが表現されていない人を、時間をかけて表現させるように組織としてはたらきかけ、それを実現させるところだったと思います。それがバブル崩壊以降、能力を表現できていないのは能力がない証拠とばかりに、能力が表現できている人を重用して組織をつくりあげることが主流になっている気がします。短期的にはその方が成果は出るでしょう。しかし、長期的にはどうでしょうか。いや、株価は短期の利益で動くのだから企業価値重視の経営者としては、正しい方向に向かっている、そんな考えもなくはないでしょう。

 

そういったことをつらつら考えていくと、国家や政府や企業って、何のために存在しているのか、という問いにまでいきついてしまいそうです。

 

 

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このページは、福澤が2014年10月29日 12:02に書いたブログ記事です。

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