年末年始のお休みには、できるだけ歴史に関する本を読むようにしました。「中国化する日本」「文明」「平成史」などです。歴史を知ることによって、現在起きている現象の意味や本質の理解、将来の予測などに役立つと期待したからです。
年末の総選挙に代表されるように、近年目先の現象面だけを捉えて右往左往する世論に、政治家も官僚もマスコミに追随しているように思えます。民意はもちろん大事ですが、世論調査で果して本当の民意を把握することができるのでしょうか。できないからこそ、政治家や文化人が必要とされるはずです。残念ながら流通する情報量が増えれば増えるほど、短期志向に陥るのは人間の性に違いありませんから。もっといけば、英雄待望論が高まりポピュリズムへ走ります。従って、よりいっそう政治家の役割の重要性は高まっているはずですが、現実は逆に行っているようです。
ところで、成人の日(1/14)の朝日新聞「天声人語」にこう書かれていました。
大人になるということは歴史と出会うこと。歴史に出会うということは社会を見出すことでもある。(中略)過去を感じ直し、現在を位置づけ直し、未来を選び直す。自分がどんな歴史に織り込まれているのかを問う営みだという。
新成人に向けての言葉ですが、もちろん我々「大人」にも100%いえる言葉です。「大人」とは、年齢を表す言葉ではなく、「思考の厚み」のようなものを持つ人を指すのだと考えます。それは必ずしも歴史知識の量をどれだけ持つかということではありません。
今朝、まだ雪がたくさん残る危ない道路を普段よりゆっくり走るバスの中で、私のすぐ近くに初老の母と知的障害を持つ息子が坐っていました。その女性は息子にこう語りかけていました。
「普段はバスはすぐ来るし、すいすい走っているよね。でも、今日みたいな日があるから、普段快適にバスに乗られることの有難みがわかるね。感謝しなきゃね」
自分のそれまでの歴史に照らして自分自身に言い聞かせているようにも聞こえました。「思考の厚み」は、そんなところにも垣間見えます。個人のレベルであっても、日本や世界のレベルであっても、歴史は同じように意味を持ちます。
今年は、歴史を踏まえて思考を厚くする努力を、地道に続けていきたいと思います。
與那覇 潤

文明: 西洋が覇権をとれた6つの真因
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平成史 (河出ブックス)
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