組織に関する課題

ある企業の幹部研修で、メンバー各自が抱える組織に関する課題を挙げてもらいました。

いろいろあったのですが、多くの方が挙げたのが「後継者が育たない」と「高齢化が進み硬直化している」のふたつでした。

 

●後継者が育たない

最近は、サクセッションプランを作成する企業が増えました。なぜでしょうか?ひとつには危機管理。企業があらゆるリスクに敏感になったからでしょう。もうひとつは、暗黙の了解による後継者が浮かび上がらなくなったからではないでしょうか。

 

以前の日本企業では、事前に後継者を指名して計画的に育成する仕組みを持つ企業などありませんでした。それでも、特に不都合なく、なんとなく衆目の一致する部下が後継者になっていったのです。なぜそれが機能したのか。

 

終身雇用を前提とし、長期的に育成していくことが当たり前だったので、誰が後継者としてふさわしいかを評価する時間が長かったことが大きい。また、定期的にローテーションするので、評価者も増えていく。つまり、多くの人がじっくり観察するため、かなり適切な評価が行われ、自然と「次はあいつだな」という見方が醸成されていたのだと思います。

 

従って、上司もその部下にチャレンジングな課題を与えたり、ときには自分の役割を担わせたりして、育成を図っていくことができた。だから、暗黙の後継者育成が機能したのでしょう。

 

ところが、最近はそうもいきません。目をかけた部下が、突然辞めてしまう。ローテーションしようにも、短期的業績に縛られている上司は、部下を離さない。さらには、上司は優秀な部下には今稼いでもらわないと困るので、チャレンジングな課題を与えたり、自分が持つ責任を担わせるような「遊び」をする余裕がない。逆に短期成果を出すために、仕事の範囲をきちんと定義してそれに集中できる環境を整えてあげようとするから、成長機会も失われる。

 

すべてが短期志向になったがゆえ、長期的に組織を強くする後継者育成ができない。それにもかかわらず、本社は危機感管理の観点から、サクセッション・プラン作成を迫り、かつその実行計画までも提出を求める。自分しか指名できるだけの情報を持たない状況で後継者を指名する上司の責任は重い。プレッシャーに苛まれた上司は、ますますデスクワークに追われ、育成する余裕がなくなっていく。こんな悪循環が発生しているようです。

 

●高齢化が進み硬直化している

高齢化は多くの大企業で問題としてあがってきます。日本の人口構成上、ある程度は已むをえないでしょう。ただし、高齢化自体が問題なのではありません(年功の場合人件費は問題ですが)。高齢化によって、社員がリスクを取らなくなったり、変化に対して鈍感になり、組織の柔軟性が失われイノベーションができなくなることが問題なのです。高齢化はその要因の一つに過ぎません。

 

組織がサイロ化し、部門をまたがる異動が難しくなったことも、組織の硬直化を促しています。組織の壁を崩すのは結局ヒトしかありません。これは、カンパニー制がもてはやされ、より下のレイヤーに権限移譲をし意思決定を速めようという一種のブームにより、部分最適が促されたことの弊害もあると思います。全体最適によるヒトの最適配置は難しくなったのです。

 

異動には、4つの観点からの検討が必要だと思います。

1)個人のキャリアマネジメント

ヒトが成長するには、出来るだけ多くのチャレンジ経験を積ませることが必要です。異動しないと、慣れ、マンネリにより成長が妨げられるリスクがあります(異動させないことのリスク)

2)顧客との接点

営業職など外部との接点が重要な職種では、異動させることにより生産性が一時的に極端に低下します。また、一から関係を作りなおす時間がかかるため、関係深化を図ることができず成果も頭打ちになってしまいます。(異動させることのリスク)

3)ノウハウの属人化

一人がずっと同じ業務を続けることで専門性が高まりますが、属人化しブラックボックスになるリスクがあります。さらには、不正が発生する素地を作ることにもなります。(異動させないことのリスク)

4)専門性の追求

頻繁に異動することで専門性を高めることができなくなるリスクがあります。組織に専門性をどれだけ保有するかで競争が左右される業界の場合は致命的にならないとも限りません。(異動させることのリスク)

 

以上のように、4つはトレードオフの関係にあり、すべてのリスクを排除することはできません。結局は、より好ましい水準でバランスを取っていくことがマネジメントの仕事になります。もちろんどうバランスを取るべきかは、経営環境や自社資源にもよるので、正解はありません。

 

異動は一つの例であり、もっと多くのトレードオフが経営にはあります。複雑な複数のレバーを駆使して、組織を操縦することは、限りなくアートの世界に近い。ただ、ひとつ言えるのは、レバーを駆使する際の、設定すべき遠くのゴールは、「不確実性の下での持続的成長」です。それを常に頭に叩き込んで操縦するしかないのだと思います。

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このページは、福澤が2014年7月25日 18:09に書いたブログ記事です。

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