組織能力を高めるには(3):社内の他組織とのかかわりによって

組織能力構築の3つめの方法、「社内の他組織とのかかわりによっての事例を述べます。


********************

グローバル企業であるX社の日本法人は、選抜された次期事業部長候補25名に対する一年間にわたる研修を実施することになった。表面的な目的は、事業部長としてふさわしい経営能力を身に付けさせることだ。しかし、本質的な目的は組織能力構築にあった。

 

X社は、多くの事業部からなるグルーバル企業である。日本X社(以下XJ)の経営陣は、日本市場での成長責任を負うわけだが、各事業部の自律性が高くXJとしての連携に欠ける。ご多分に漏れず、米国本社からの事業部コントロールが強いのだ。そのため、日本の競合企業に対して劣勢を強いられている。XJ経営陣は、事業部へ連携をはたらきかけるものの、米国本社の意向を優先させてしまい、なかなか連携できない。結果として、シナジーも生み出させない。

 

この構造では、事業部のリーダーは育ったとしても、XJの経営陣となれる人材の育成は困難だ。そのため、優れた業績を上げた事業部長ですら経営陣に抜擢することも難しく、結局本社から経営陣を招くことも続いていた。このような状況では、日本市場での成長は難しいため、XJの本社における存在感も徐々に低下している。

 

XJのトップもしばらく本社からきていたが、現在は日本人が社長を務めている。このような状況に危機感を抱いた現社長が、この研修プロジェクトの実施を指示したのだ。


XJ経営陣の真の目的は、以下三点だった。

1)XJからグローバルに活躍できる人材が継続的に輩出する仕組みを構築する

2)各事業部が連携して日本市場を攻略できるようなXJの組織文化を醸成する

3)具体的に事業部の壁を越えた新事業を開発する

 

研修の内容は、対象となるテーマ(財務、マーケティングなど)とも以下4ステップで構成された。

1)知識は事前に指定された課題図書でマスター。事前試験の合格が受講の条件

2)集合研修の第一ステップは、基本フレームワークを概観するセッション

3)第二ステップは、ケースメソッドで思考ツールを適用させてみる

4)第三ステップは、実践として自社の実際のビジネスに適用させてアウトプットを作成させる

 

重要なのは第三ステップです。たとえばマーケティングであれば、ある事業部の製品を取り上げて、その製品の販売をさらに拡大させるためのマーケティング戦略を他の事業部のメンバー(全5名のグループワーク)とともに策定し、クラスで発表します。グループ内はもちろんクラスでも盛んな質疑応答が繰り広げられます。普段は他の事業部の活動に触れる機会がないメンバーは、研修の場ということもあり、純粋な知的好奇心が刺激されるのです。


また、このような場であればこそ、そのテーマの専門家である講師の的を射たコメントやアドバイス(②「外部とのかかわり」です)は非常に有効に刺さります。そうして、こういった議論を通じて知ることで、他事業部への関心が高まり、何か連携できないかと考えるようになります。単なる人間関係づくりではなく、お互いに学びあえることを知り、連携することのメリットも実感できるのです。

 

このサイクルを、数多くのテーマで繰り返していきますので、最後には既存の壁を越えた新規事業開発提案に関しても本気になっていきます。一事業という視点から大きく視座を上げて、最終的には経営者の視点で企業全体を見ることができるようになります。そして、こういった研修を毎年繰り返すことで、経営人材の母数がどんどん増え、新しい組織文化とともに経営に関する共有言語が組織に浸透していき、当初狙った3つの真の目的が達成されていくのです。

*****************

 

今回は研修をひとつの事例として、社内の他組織とのかかわりを中心とした組織能力構築の例を示しました。当然のことながら研修は、「個人へはたらきかけ」でもあり、最初の回に述べた「②リーダーシップ開発」です。また、「①リフレクション」の効果も大きい。さらに、研修を通じて新たな経営チームを組織化していると考えれば「③組織開発」でもあるのです。「④組織能力構築」は単独でなされるのではなく、他のアプローチと合わせ技でなされるべきというのは、このことです。個人と組織(事業部門と企業)は入れ子状になっているため、それを踏まえた働きかけを考える必要があるのです。


トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 組織能力を高めるには(3):社内の他組織とのかかわりによって

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.adat-inc.com/cgi-bin/mt-tb.cgi/624

コメントする

このブログ記事について

このページは、福澤が2014年5月15日 11:54に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「組織能力を高めるには(2):3つの組織能力構築方法」です。

次のブログ記事は「時代によって求められる組織と人材は変わる」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1