組織能力を高めるには(1):4つのセグメント

経営環境の不確実性が高まることは、組織能力を高めることの重要性を高めることになります。それに異論をはさむ人はいないでしょう。ではどうやって組織能力を高めるのか。理屈がありそうでありません。またどの部署がそれに責任を負うかも曖昧で、どの企業も試行錯誤。これが日本の企業の多くの現状でしょう。

 

これには理由があります。

1)集団が自律的に秩序を維持する傾向が強く、あえて組織化や組織効果性向上のための施策を検討する必要性が高くはなかった(一緒に飲めばなんとかなる)

2)組織に属する個人を長期的に育成することで、結果として長期的な組織の能力が高まっていた

3)確実性の低い経営環境では、上記のような前提を所与とした経営システムが長期的な組織能力を高めることに成功した

 

一言でいえば必要なかったのです。しかし、不確実性は高まり、また構成する個人の同質性も以前に比べれば低くなってきています(それでもまだ高いが)。そこで、組織能力を高めるための意図的な活動が必要になってきていると考えられます。その際の枠組みを考えてみました。

 

一軸は、はたらきかける対象です。集団か、それに属する個人かです。社内研修を社員の集団に実施するとしても、そこに他社の社員が混じってもほとんど問題ないような研修は、集団ではなく個人を対象としたものです。社外の研修機関への派遣も当然個人対象です。集団にはたらきかけるとは、その集団でなければならない理由が明確にある場合です。

 

もう一軸は、組織能力を高めるためのアプローチです。ひとつは、対象の潜在能力を顕在化させることで能力を高めるアプローチ。もう一つは、新たな知識やスキルを付加することで対象の能力を高めるアプローチ。ただし、必ずしも明確に線引きできるものでもないでしょう。

 

この2軸により、「個人X顕在化」、「個人X新たな知識」、「集団X顕在化」、「集団X新たな知識」4つのセグメントが規定されます。私はそれぞれを、①「リフレクション(気づき)」、②「リーダーシップ開発」、③「(狭義の)組織開発」、④「組織能力構築」と呼んでいます。

 

日本企業の従来型の組織能力向上への取り組みは、個人へのはたらきかけと先に述べました。つまり、①と②です。OJTとは、上司が部下に知識を伝授することよりも、部下の気づきを促すことにその重点があったと私は考えています。(この峻別は非常に重要)従って、①により長期的な人材育成を行い、結果として長期的に組織が強くなっていく。また、管理者教育を丁寧に行うことで、管理者が責任を担う組織の強化を促してきました。近年その教育内容は、管理者教育ではなくリーダーシップ開発を呼ばれるようになりました。「管理からリードへ」といったところでしょうか。いずれにしろ、集団の能力向上をそこのトップ(長でもリーダーでもいいです)の個人技に依存するという点では変わりません。

 

このような個人へのはたらきかけでは、すまなくなってきているのが現在の多くの日本企業です。だから最初に述べたように、試行錯誤しながら困っているのです。そのため、やっと最近組織開発という言葉が、一般の経済誌に少しずつ登場するようになってきました。(昨年末には、日経朝刊で金井先生が「組織開発の最前線」として、10回にわたって連載しました。)

組織開発という用語は、様々な解釈があります。先の連載の冒頭、金井先生は以下と定義しています。

組織開発とは、職場を望ましい方向に変える技法、これを支える応用理論体系、それらの基礎となる人間主義的な価値観の総称だ。

わかったようなわからない定義ですね。でも、仕方ないのです。組織開発は、リーダーシップと同じくらい曖昧なものなのです。


そこで私は、それをもう少しわかりやすくするために、③と④に分けてみました。③が一般的に組織開発と定義されることが多い分野です。しかし、特に日本企業で必要とされているのは④だと私は考えています。③は冒頭の1)に書いたように、日本人集団はわりに得意だからです。もちろん、だんだんそうとも言えなくなりつつあるような気もしますが。

 

④については、④単独の施策というよりも、①~③を踏まえつつ④を目指すことが効果的だと、私は過去の経験から考えています。それは次回書いてみましょう。

 

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このページは、福澤が2014年5月13日 12:35に書いたブログ記事です。

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