シンプルに

グローバル人材育成が、近頃のトレンドのようです。国内市場の成熟が明らかとなった今、海外に打って出ることが多くの日本メーカーの唯一の生き残り策となっていると考えられているからなのでしょう。

 

今やそのトップランナーである、ユニチャームの高原社長の講演を先日聴きました。それによると、海外進出成功の秘訣は、国内のエース級を率先して海外赴任させることにあるそうです。例えば、国内の営業で高い実績を挙げている20年選手を、いきなり駐在させ10年単位で任せる。TOEIC250点でも全く問題ない。語学が得意で海外経験も豊富な中途採用者や若手は間違っても出さないそうです。重要なのは「(担当分野において)仕事ができること」と「ユニチャームの価値観を体現していること」のふたつだけです。ものすごくシンプルです。

 

現在の執行役員も半分以上は海外駐在中かその経験者です。会社にとって海外市場は戦略的に重要だからそこに優秀な人材をシフトさせる。結果的にその経験者が出世していく。会社の方針がシンプルで明確、一貫性があります。当たり前といえば当たり前ですが、多くの企業ではそれができない。

 

この考えの前提には、「本来能力の差なんてたいしたことない。大事なのはそれを開発、発現させる機会を会社が適切に提供しているかどうかだ」という考え方があります。国内で成果を出せる社員であれば、海外でも出せるはず。さらには異なる経験を積むことで、さらに能力が開発されるだろうというわけです。

 

えてして人材開発担当者は、経営陣の意向を受けて「グローバル人材」というなにか特殊なスキルを持った人材を発掘、育成しようと努めます。またそれを売りにするコンサルタントやベンダーが跋扈します。本来果すべき役割は、グローバル人材を育成することではなく、内外問わず成果を出せる人材を育成することです。それすらよく考えられていないにもかかわらず、新たなグローバル人材というお題を与えられて、右往左往しているかのようです。

 

 

私が戒めとしている言葉のひとつに、「小人閑居して不善をなす」があります。人間としての小物は、暇を持て余すと悪いことに走りがちという意味でしょう。だから「できるだけ忙しくしていよう」とも読めますが、私は「考える時間や余裕があると、つい考え過ぎてしまって物事を複雑にしてしまい、結果として意図せず周囲や自分に悪い影響を与える判断をし、行動してしまう」と解釈しています。これは個人レベルだけでなく組織にも言えることで、避けがたい人間の習性といえます。

 

その解毒剤は「シンプルに考える」ことに尽きると思います。なぜアップルは、あれだけ巨大企業になっても、創造性も一貫性も失われずにいられるのか。その秘密は、ジョブズが非常にこだわった「シンプルさ」への信仰にあったのだと、「Think Simple」(ケン・シーガル著)を読んで腑に落ちました。

 

「小人閑居して不善をなす」とは、「Think Simple」の反語だったのです。シンプルなんて使い古され手垢が付きまくっている言葉ですが、成熟した時代にその重要性はますます高まっていくことでしょう。



 

Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学
ケン・シーガル 林 信行
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このページは、福澤が2012年7月 6日 11:18に書いたブログ記事です。

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