「改革」は正しいか

日本最強の電機メーカー、パナソニック、ソニー、シャープの3社が仲良く大きな赤字を計上し社長交代に追い込まれたことは、時代の転機を象徴しているように思えてなりません。垂直統合モデルが効かなくなったとか、組織が硬直化して意思決定が遅れたとか、いろいろ言う人は多いのですが、どうもそういう問題ではないような気がします。

 

上記3社に限りませんが、「改革」を進めてきた結果一次的には利益を生んだものの、それも長くは続かず、赤字に戻ってしまうというパターンが多いようです。それはなぜなんでしょうか?

 

「改革」の名のもとに行われてきたことの多くは、アメリカ型の経営への転換と言ってもいいでしょう。これは企業レベルの施策だけでなく、政府の法規制による誘導も含めてです。そういった「改革」が本当に日本企業を強くするものだったのか。

 

例えば、取締役改革。ソニーに代表されるように、社外取締役を大幅に増やすことで、経営者の暴走を抑えようとしました。オリンパスしかり。しかし、結果は、取締役会で社長を抑え込めるだけの内部情報を持つ役員がいなくなってしまい、社外取締役が社長の暴走を助長することになってしまったとは考えられないでしょうか。(それでも政治家の中には、単純に社外取締役を義務化しようとの主張もあるようで驚きます)

 

こうした動きは、外に模範を示してくれる先生がいるはずだ、との暗黙の信念があるからに違いありません。古くは中国(隋、唐、明、清など)、明治維新後はヨーロッパ、戦後はアメリカが模範でしょう。

 

日本人の特性として、先生あるいは権力者(正しい判断を下すはずの人)を探り当てて、その先生との親密度で優劣を決めるというところがあります。「アメリカでは現在、XXXという経営手法がブームになっているらしい。それを我社がいち早く導入し、業界における経営改革の先陣を切るのだ」といったことを尊ぶ風潮がありはしないでしょうか。

 

もちろん、その手法が当該日本企業にとって適切なものであれば結構なことですが、多くの場合そうではないことが多いようです。適切な例ではないかもしれませんが、1970年代初めに建設された福島第一原発のマークⅠと呼ばれる格納容器は、GE社が米東海岸に設置するために設計したもので、そもそも地震が起こることを想定していなかったそうです。それを無邪気に導入した東京電力と、無邪気にアメリカでブームの経営手法を導入している日本企業とあまり差はありません。(その点98年に格付け会社から終身雇用を続けるのなら社債格付けを落とすと迫られても、堂々と反論したトヨタは立派でした)

 

古来日本が外国から新しい概念などを輸入したときは、無条件に導入するのではなく、必ず日本の文化や風土に合うように変形させてきました。仏教でも寺院建築でも、似て非なるものに修正しています。また、律令制は輸入したものの科挙制は受け入れないというように、選択的導入を図っています。そういった知恵が、あまり働かなくなっているように見えるのはなぜなのでしょう。

 

ひとつには、経営者の責任があります。東京理科大の伊丹教授が『よき経営者の姿』という本で、長年の観察から経営者が劣化しつつある状況を分析しています。

よき経営者の姿よき経営者の姿
伊丹 敬之

by G-Tools

 

 

「改革」の名のもとに、角を矯めて牛を殺すようなことが行われていないでしょうか。そうしないためには、自社(及び従業員)の体質や文化、思考パターンを認識しておく必要があります。日本人が、どれだけ沢山のコーラを飲んでビーフを食べてロックを聴いてもアメリカ人にはなれません。勘違いしてはいけません。「変える」ことが目的ではなく、「組織を強くして業績を上げる」ことが目的です。

 

そのために、変えるべきことと守るべきことを峻別する知性、そして変えるべきことをどのようにどうやって変えるかの深い思考が求められています。その思考のベースには、「日本人が主体の日本の会社」だという前提をはずすことはできないでしょう。だからこそ、我々は「日本人」についてもっと理解を深める必要があると思います。

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このページは、福澤が2012年4月 2日 19:17に書いたブログ記事です。

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