村上隆から学ぶ創造性

今朝の朝日新聞で、今や日本を代表する現代美術家である村上隆のインタビューを興味深く読みました。彼は明確な戦略のもとで世界を狙って成功しています。

 

なぜ海外で評価されているのか、との質問にこう答えていました。

 

日本の美を解析して、世界の人々が「これは日本の美だな」と理解できるように噛み砕いて作品を作っていることだと思います。僕は、戦後日本に勃興したアニメやオタク文化と、江戸期の伝統的絵画を同じレベルで考えて結びつけ、それを西洋美術史の文脈にマッチするように構築し直して作

727727(l).JPG品化するということを、戦略的に細かにやってきました。それが僕のオリジナリティーです。

 

なるほどねー。マーケットを世界に定め、彼らに分かりやすくすることを重視している。いいものはいいんだ、というありがちな作家の一人よがりはありません。そして、作品の題材は、一見異なる戦後日本のサブカルチャーと江戸期の伝統絵画を交差させたこと。我々日本人から見れば、この二つを交差させることによる違和感やそれは変だという理由はいくらでも説明できます。

 

しかし海外コレクターから見れば、戦後のアニメやオタク文化も琳派などの江戸絵画も、自分たちと異質な視点で形成されたという意味では同じレベルにあります。というか、同じレベルであっても、さほどおかしくは感じない。さらに、西洋美術史の文脈にマッチするように構築し直すことで、彼らの認識の土俵に置いてあげている。きっと、彼らから見れば自分たちが村上を「発見した」と思うのでしょうが、実際は発見するように綿密に仕向けているのです。

 

こういった、一見すると異質なもの同士を、受け手の文脈にマッチするように再構築して、受け手に発見の喜びを与えるという戦略は、アート以外の世界でも使える気がします。創造とは「異質の組み合せ」ともいいますし。

 

科学的創造の話ではありますが、1791年に英国で内燃機関の特許が取られてから、1885年にベンツによって自動車が開発されるまで100年近くかかっています。内燃機関と車輪を結びつけ、移動手段という文脈にそれらを置くことは、後で思うほど容易ではないのです。「(19世紀の)馬車の利用者にどれだけインタビューしても、誰も自動車がほしいとは答えない」と言ったのは、スティーブ・ジョブズです。誰も想像すらしていないものを、組み合せて創造した人こそ真のイノベーターです。

 

 

話を戻しますが、文脈にそったうえでの意表をついたズレと連結が、人間の感情を揺さぶるのでしょう。村上やジョブズのようにそういった仕掛けをデザインできたら、きっと楽しいでしょうね。

 

これからの社会では、経済活動と人間の感情の結びつきがどんどん強くなっていくことは間違いありません。その時、村上のようなマインドというかスタンスは、ビジネスパーソンにとっても重要になってくるでしょう。

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このページは、福澤が2012年1月17日 19:35に書いたブログ記事です。

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