日本企業における「会計」の学習熱

企業研修で、会計分野は定番中の定番です。思うに、20年前くらい前までは、必ずしもそうではなく、経理部門など特定部署向けか、選抜幹部候補者向けのプログラムだったような気がします。一体いつからそうなったんでしょうか?以下は勝手な私の推測です。

 

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1960年代から70年代にかけて、原価計算などの管理会計は製造業を中心に、盛んに研修が行われていた。QCサークルなどでの改善活動に欠かせなかったからだ。でも、営業などの非生産部門では全く会計には触れる必要はなかった。

 

その後、行き過ぎたQC活動の反動とコンピュータ化の進展に伴い、現場からQC活動は徐々に消えていった。それに伴い、管理会計の研修もされなくなった。

 

80年代半から始まったバブルは、一躍会計にスポットライトをあてることになった。財務会計の知識がなければ、資金運用(財テク)やM&Aの話題についていけなかったからだ。MBAホルダーが社内でも脚光を浴び、会計や財務の知識を駆使し社内を闊歩するようになる。一方、生産部門に陽はあたらず、管理会計どころではなかった。

 

そして90年代前半のバブル崩壊とその後長くつづく不景気が、さらに財務会計の重要性を高める。リストラを推進するためにはバランスシートを圧縮しなければならない。さらに、生産現場も開発現場も採算向上を強く迫られる。また、営業現場でもやはり営業効率や収益性という指標で絞られる。以前は、とにかく売れれば何でも良かったものが、「利益」の上がるものだけを売れと変わった。極めつけは、顧客の決算書を読み込んでコンサルテーションできなければ一流の営業マンではないとする企業まで現れた。

 

またこの頃から、管理職たるものPLBS、さらには目新しいキャッシュフローを理解できなければ失格といわれるようになった。以前は、いかに部下を管理するかだけを考えろといわれていたのに。

 

こうして突然、社長から新入社員まで全員財務三表が読めなければ失格という財務会計シンドロームにはまった。そうして、あの名()作が生まれた。「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」(山田真哉著)である。さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)
山田 真哉
4334032915
この本は、既存の会計本では難しすぎるとの読者の声に応えるべく書かれたという。これを読めば少しは会計の勉強になるのか、読んでいない私は知らない。でも、あれだけ類書も出るくらいヒットしたのだから、誰もが会計を勉強しなければならないというプレッシャーに恐怖していたことは想像に難くない。

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以上、ここまでは推測でした。

 

ところで、現在の日本企業の中で求められている会計の知識とは、財務三表を中心とする財務会計なのでしょうか。仕事で決算書を読む必要がある方は、それほど多くはないと思います。決算書は企業の通信簿なわけですから、それに関心を持つのは、それなりに責任あるレベルの方でしょう。生産現場や営業マン、あるいは小さな組織の管理者といった社員は、企業レベルの成績よりも、日々の仕事、つまりいったいどの製品を追加生産すべきなのか、顧客を絞るとすればどこを切るか、適正な商品発注量はどの程度か、アウトソースすべきかどうかといった、細かな意思決定のための数字の扱い方を求めているのではないでしょうか?専門的な用語でいえば「意思決定会計」あるいは「経済性分析」といわれる分野で、かつてのQCサークルでは盛んに勉強されていました。

 

ある大手製造業の役員は、若い頃徹底的に勉強させられたそうです。ところが自分たちより若い世代は、全然そういう知識がなく愕然としたそうです。なぜそれに気がついたかというと、ある英国企業を買収したからです。そこと研修内容をある程度揃えようと調べたところ、買った英国企業には多くのこの分野の研修プログラムが揃っているにも関わらず、自社には一切なかったのです。驚いたその役員は、まず役員向けに研修を実施、順番に下のレイヤーにも実施していったのです。

 

 

財務会計ももちろん重要ですが、一般のビジネスパーソンにとってより重要なのは、意思決定のための会計の知識であり、その基盤となる数字を使ったものの考え方です。財務会計の考え方に基づき意思決定すると間違ってしまうことは、実際のビジネスではたくさんあります。どうもそのことを知らない人(人材開発担当を筆頭に)が多すぎるように思います。そろそろ新しい歴史をつくる(ちょっと大げさですが)時期にきているのではないでしょうか。

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このページは、福澤が2011年11月14日 20:22に書いたブログ記事です。

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