研修がなぜ組織に浸透しないのか

人材開発部門がいくらいい研修を企画しても、事業部門がなかなか協力してくれないし、受講者も本気で研修に取り組んでくれず、ましてや業務で活かせない、そんな声をHRD担当者から聞くことがあります。

 

一方で、事業部門から人材開発部門に対してもっと研修への参加枠を増やしてほしい、こういうテーマの研修を企画して欲しい、との要望が絶えない企業もあります。

 

その違いは何なんでしょうか?私のこれまでの経験から、両社の違いを描いてみましょう。仮に前者をA社、後者をB社とします。

 

A社では、研修担当者がわりに頻繁に変わります。もちろん、どの担当者もいい研修プログラムを企画したいと張り切ります。それぞれ自分の思いを研修に込めて企画実施するのですが、最初はなかなかうまくいきません。その意図を事業部門と共有するのも、当初は難しいからです。頑張ってその研修を3年続けて、やっと事業部門との信頼関係もでき、満足度も高まった頃、その担当者は異動でいなくなってしまいます。もちろん後任に引き継ぐのですが、後任は後任で自分の思いを入れ込みたいので、プログラムは変化していきます。そうなると、出し手側の事業部門では、また意図を汲みかねる事態となります。

 

A社では「打ちあげ花火」のような目立つ研修を数年に一回はぶち上げるのですが、それを支援し続ける幹部もおらず、結局単発の花火で終ってしまいます。事業部門は、またか・・と思い、適当に付き合っておこうと思うようになるのです。

 

また、異動がなかったとしても景気が悪くなると真っ先に研修予算が削られ、今年は中止という事態も頻繁に起きます。つまり、じっくり時間をかけてその研修を組織に浸透させることが、A社ではなかなかできないのです。

 

 

B社は違います。B社では研修を10年単位で継続させることを、最初から想定しています。担当者の異動サイクルも概して長いようです。もちろん、10年間漫然と継続させるのではなく、毎年受講者や出し手である事業部門からのフィードバックを受け進化させていきます。そうなると、事業部門は研修の意図や効果を咀嚼し、どう活用してやろうかという意識になってきます。また、受講者のストックも増え、組織の中で口コミの評判も広がってきます。そうなると、未受講者は早く自分もその研修に参加したいと思うようになります。そうして受講した際には、後輩のために研修をもっといいものしたいとの思いで、非常に有益で建設的なフィードバックを返すようになります。その結果、研修の品質はどんどん良くなっていくのです。こうして組織の中にその研修が当たり前のものとして組み込まれていき、研修で学んで欲しいこと(スキルや意識など)が組織に浸透していくことになるのです。もちろん、景気が悪いからと簡単に研修を中止するようなことはありません。こういうことが当たり前になれば、事業部門としての組織の目的を達成するために、研修という場を手段としてうまく使おうと考えるようになり、人材開発部門に対して様々な研修要望を出すようになります。

 

この両社の違いはただひとつ、企業が研修をどの程度の時間軸で捉えようとしているかだけです。人が育つにも組織が変わるにも時間がかかることは誰もが理解しています。にもかかわらず、A社ではそのための手段を非常に短い時間軸でしか考えられなくなっている。それは、なぜなんでしょうか?

 

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このページは、福澤が2011年11月17日 20:55に書いたブログ記事です。

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