熟達と直感:プロ棋士の脳の使い方分析から

今朝の朝刊に、プロ棋士が対局の際に脳のどの部分を使用するかを、理化学研究所がfMRIを使って調べた記事がありました。一部抜粋します。

 

プロ11人とアマチュア17人に「序盤」「終盤」などの意味のある盤面を見せると、視覚に関連する大脳皮質の「楔前部(けつぜんぶ)」と呼ばれる部分の活動の強さがプロではアマチュアに比べ3倍に達した。盤面を見た瞬間に状況を把握する能力を反映したと考えられるという。ランダムな盤面だと、どの棋士も活動がほとんど変化しなかった。

 プロ、アマチュア17人ずつを対象にした詰め将棋の実験で次の一手を考えてもらうと、プロは習慣的な行動にかかわるとされる「大脳基底核」の一部の働きが活発化していた。活動が強いほど正答率は高かった。アマチュアはこの部分がほとんど活動していなかった。大脳基底核の一部は直観的な脳の働きにかかわっているとみられる。

 

(日経朝刊より)

 

とても面白い実験ですね。何の分野でも熟練の達人は、一瞬にして結論を出せるといいます。つまり考えて判断しなくても、勝手に結論が出てくるイメージでしょうか。

プロ棋士は盤面を見た瞬間に、視覚に関連する大脳皮質の「楔前部(けつぜんぶ)」で過去のあらゆる盤面を想起するのではないでしょうか。つまり記憶の多数の盤面を見るのです。

 

そして判断などせずに、大脳基底核で即習慣的行動に入る。ピアニストが弾くときに反応する部分だそうです。ピアニストは次にどの鍵盤を弾こうかなどとは考えていません。想像するに野球のバッターが来たボールを打ち返すときにも、同じ部分が活性化するのではないでしょうか。肉体と頭脳と、一見異なるところを使用していますが、きっとそれらと同じことが棋士にも起きているのでしょう。

 

いずれも、判断ではなく直感、思考ではなく反応です。長年の訓練により、超高スピードの判断が習慣的行動に組み込まれたと考えることができるかもしれません。職人は、考えているようじゃだめだとよく言います。体も頭も同じなのです。


スズキ自動車の鈴木会長は、工場内をざっと一周歩いただけで、数十もの改善点を指摘するそうです。探すのではなく、勝手に目に入ってくるのでしょう。その時も、楔前部と大脳基底核が活性化しているに違いありません。

 

では、どうすればその境地に達することができるのか。最初は、「注意深く見る」、「これまでの類似事例を思い起こす」、「その中から最も使えそうな事例を選択する」、「それに即して判断する」を、ひたすら数多く繰り返すしかないでしょう。それがある臨海点に達すると、その4つのステップが、無意識に習慣化された一瞬、すなわち「直感」に結実するような気がします。「ローマも一日にして成らず」で、物理的な時間(5年なのか10年なのか30年なのかはわかりませんg)は絶対必要です。


もし、それを短縮したいと思えば、誰しも24時間は一定ですが、その中で「見る」や「判断する」などの回数を絶対的に増やすしかないと思います。それを規定するのが、努力する才能なのでしょう。

 

もうひとつ、的を射た「直感」を生み出す環境整備も意味がありそうです。つまり、直観に至るまでの「ルーティーン」を決めておくことです。そのルーティーンに入った時点で、直感を生む場に入ると、無意識に自分に言い聞かせ、暗示にかけるのです。イチローがバッターボックスに入ったときに必ずする仕草がそれです。戦国時代の武将が、戦場に赴く前にお茶を立てたり、あるいは仕舞を待ったり謡ったりしたのも、不確実性の高い戦場で直感を発揮させるためのルーティーンだったのかもしれません。

 

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このページは、福澤が2011年1月21日 14:43に書いたブログ記事です。

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