戦略思考の欠如と組織の暴走

NHKスペシャル「なぜ日本人は戦争に向かったのか ~第二回巨大組織陸軍暴走のメカニズム~」を昨晩観ました。NHKは昨年から過去の戦争を再検証する番組を増やしているような気がしますが、どれも興味深い番組です。戦争当事者のほとんどが無くなり、その遺族も冷静に過去を振り返ることができるだけの時間が経過したことが背景にあるように思います。遅すぎるきらいがなくはありませんが、これからもっと積極的に歴史を掘り起こしていただきたいと思います。

 

さて、昨日の第二回ですが、今に続く日本の組織の病根がえぐり出されていました。それは私なりに解釈すると、「遠くの大きな敵よりも、近くの小さな敵」ということです。元老支配の陸軍の体制を、第一次世界大戦を間近で観察したエリート数人が、陸軍の改革を密かに計画したことが発端でした。その手法は「人事」です。主要なポストをじっくり時間をかけて押さえて、人事の網の目を持って組織を内部から牛耳ろうと画策したのです。

 

その計画は順調に進み、ほぼ主要ポストを制圧します。しかし、破綻はそこから始まります。改革を実行できる基盤を確保したのはいいのですが、その後のビジョンが定まっておらずばらばらだったのです。まるで今の民主党です。そして現実路線の統制派と拡大志向の皇道派に分かれて派閥闘争を繰り広げるのです。そもそもの改革リーダーであった永田鉄山が皇道派に暗殺され、ますます両派は混乱し過激になってきます。永田鉄山が死んでいなかったら太平洋戦争には踏み切らなかったのでは、との当時の士官の証言が重いです。

 

こうなると、中国や米国といった海外の(仮想)敵と戦うためのエネルギーの大部分は反対派閥への攻撃に使われることになります。まさに、「遠くの大きな敵よりも、近くの小さな敵」状態です。後は破滅までの道を一直線です。

 

もう一つの病根は、「常に自組織の利益を最優先する」ことです。国内の陸軍省で現実路線を模索していた官僚も、中国の部隊に異動させられると拡大路線に宗旨替えします。つまり、自組織とはその時に所属している組織のことで、所属が変わればまた意志も変わるということです。戦線拡大→軍隊増強→多くのエリート幹部着任→戦線拡大を主張、という拡大スパイラルに入ると、もう本部ではコントロールできなくなってしまいます。したがって賢い現地配備軍の幹部は、リスクを取ってでも最初の戦線拡大を図ることに執着するのです。

 

この二つの事例からいえることは、大局観を持ったリーダーの不在です。戦術には長けていても、戦略思考ができないのです。明治以降の日本の軍隊(自衛隊も含めて)では戦略に関する教育は実施されてこなかったと聞いたことがあります。教えを仰いだ欧米列強の軍隊に多くの留学生を派遣していましたが、戦術は教えてもあえて戦略は学ばせなったようです。日露戦争勝利後、日本の台頭を恐れた列強は、さらにその意志を固めたそうです。日露戦争が太平洋戦争での敗戦を招いたという言い方がされることがありますが、まさにそうかもしれません。

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このページは、福澤が2011年1月17日 10:13に書いたブログ記事です。

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