一人の画家が描くものが、具象から抽象にうつりまた具象に戻っていくということは、意外に珍しいことのように思います。先日回顧展を観にいった岩澤重夫がまさにそうでした。
現在日本橋高島屋で開催されている岩澤重夫展(11/1まで)は、昨年の金閣寺客殿壁画完成を記念した回顧展です。襖で仕切られた三つの大きな和室の襖絵がメインに展示作品です。彼は、完成直後の昨年11月に81歳に亡くなりました。この作品が、彼の一生の総仕上げだったように思います。
最初の部屋は具象の梅と松、海に浮かぶ太陽が描かれており、次の間は金

その後には、若い頃から晩年までの作品が陳列されています。若いころには、ピンポン玉や釘などを使った抽象アート作品もあります。近年は、雄大な山を緻密に描いた大きな作品が多いのですが、これがまた素晴らしい。江戸時代は一大木材産地で天領だった大分の日田出身の彼は、山や木に対して特別な思い入れがあったように感じます。例えば、93年に描かれた「渓韻」
は、真夏のはち切れんばかりの濃い緑の木々を緻密に描くことで神々しいまでの山の存在感とそこの空気感が伝わってきます。さらに真ん中を流れる渓谷が、動きと生命感を放ちます。作家の「思い」がびんびん伝わってきます。もう、具象でも抽象でもどうでもよくなってしまうようです。
そんな具象と抽象を行ったり来たりしてきた彼の集大成がこの襖絵であり、最後の間が水墨で引かれた稜線だったというのも、いとをかしでした。
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