守島 基博

「人材の複雑方程式」(守島基博著)は、バブル崩壊後の日本企業の人材マネジメントを、リアリティーをもって分析されている、好著だと思います。
日本企業の弱体化→グローバル・スタンダード型人材マネジメントの安易な導入→更なる日本企業の弱体化
のサイクルをわかりやすく解説しているとも読めます。たとえば、
リーダー育成は、フォロワー育成とあいまって初めて本来の効果を発揮する。
選抜教育は私も必要だと思います。だからといって、それ以外の大多数の社員の教育をおろそかにしていいはずがありません。しかし、残念ながら現状はそうはなっていません。階層別研修がそうだとは言い切れませんが、一定年次になったら押しなべて研修機会を提供する姿勢すら、近年薄れているように感じます。内容を吟味した上で、やはりそこへの投資もすべきでしょう。
さらに、成果主義導入がその必要性を高めています。
敗者にとって、将来は成果をあげられると思うための仕掛け(例えば人材育成)が重要になる。(中略)評価制度の納得性を高めるための膨大な量の研修と、成果主義と連動した人材育成である。
成果をあげろと圧力をかけておきながら、そのための支援はほとんどない。成果が上がれば給与を増やすから頑張れ!と言っておきながら、経営陣はたとえ減益であっても報酬は増やしているという現実も、徐々に表に出てきています。
突き詰めてしまえば、「信頼」に行き着きます。
新しい戦略に移っていくといなど、企業の変革にあたっては、働く人が経営者にどれだけ信頼を置いているか、その結果としてどれだけ我慢する気があるかが、重要な経営資源なのである。
信頼とは、不確実な状況で行動をとるときの相手の意図に搾取的な要素がないという評価だという。
長い間日本企業の隠れた経営資産であった、経営陣と社員との間の信頼が揺らいでいるかもしれないこと、これが最も重大な問題と思います。なぜそれが失われつつあるのか、そしてその回復のために何をすべきか、経営陣は徹底的に考えるべきでしょう。ここ数年が勝負だと思います。
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