自分との対話:映画「森聞き」を観て

今、リフレクション(内省)が時代のキーワードになっている気がします。目まぐるしく移り変わる日々の中で、ふと立ち止まって自分自身を振り返ることを、潜在的に多くの人々が求めているのではないでしょうか。

 

振り返るには、なんらかの対象が必要です。他者との対話かもしれませんし、また自分を写すことができるなんらかの鏡かもしれません。

 

映画とは、そのような自分自身を写す鏡となりえます。ドキュメンタリー映画 「森聞き」の試写会を観て、あらためてそう思いました。

 

その映画の出演者は、普通に高校生四人と、森の仕事名人である老人四人です。高校生それぞれが、ひとりの老人に森での暮らしや仕事についての話を聞いて、文章にまとめる姿を追った映画です。

 

東京の高校生三年生女子は、母親から森に行くことを反対されます。そんなことより、受験勉強しなさいと。そうしないと、ブランド大学に入れないよと。娘は、「私はブランドでバッグを買うのではなく、好きだと思うバッグを買いたいの」と答えます。そして自ら「森聞き」を希望して山に入ります。森聞.jpg

 

四人はそれぞれ、圧倒されるような歴史と技術と誇りを背負った老人と出会い、面くらいます。そこでは感動的なエピソードが綴られるわけではありません。四組それぞれの不器用な交流があるだけです。

 

観ている多くの人は、高校生に自分を重ね、映し出すことでしょう。自分が高校生のときはどうだっただろうか。今、何が変わったのかと。あるいは、先の母親に重ねる人もいることでしょう。また、老人に重ねる人もいるでしょう。どの世代が観ても、自分をなんらかの形で振り返ることができる映画です。

 

決して、涙の別れがラストに待っているわけでもありません。結論があるわけでもありません。だから、リアルなのです。観終わった後で、誰かと感想を語り合いたくなる映画です。実際に、試写終了後、話し合いました。観る人によって、いろいろな観方ができるのだと実感できました。

 

いい作品(本でも映画でも絵画でも)とは、観(読み)終わってから自分の中でじっくり何かを考えたくなるものだと思います。心の中に、何かが刺さるわけですね。Entertainmentとは、心に入り込んで残るもの。Amusementは、一瞬で過ぎ去りますが、それとは異なります。

 

経験を積むほど、Entertainmentを楽しめるだけのキャパシティーが大きくなることでしょう。齢を取ることは、悪いことではない気がしました。これからも、こういう作品にたくさん触れていきたいものです。

 

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このページは、福澤が2010年6月 9日 17:24に書いたブログ記事です。

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