新国立美術館で開催されている「ルーシー・リー展」を観てきました。彼女は、95年に亡くなった、イギリスで活躍した陶芸家です。1902年生まれの彼女の作品が、年代を追って250点展示されている、これまでで最大規模の回顧展です。作品の素晴らしさは言うまでもありませんが、彼女の凛とした生き方や感じ方、性格が作品を通して伝わってくるような展示でした。
●「守」の時代:ウィーンでの活動期~ロンドン初期
ウィーンで生まれたルーシーは、初期にはいくつかの先人からの影響を受けています。ひとつは、クリムトに代表される、伝統的な美術から分離する新しい芸術運動(分離派)の影響。金を多用した装飾性の高い作品が特徴です。ふたつめは、バウハウス運動の影響。無駄を省いた、合理的で機能的な作品が特徴です。三つ目はロンドン亡命後のバーナード・リーチの影響。リーチは、柳宗悦や浜田庄司との交友で有名な、陶芸家です。日本の民芸運動とイギリスの伝統的陶芸の融合を図った芸術家です。ルーシーは、リーチを通して日本の焼物や李朝陶器の影響を受けていることが、作品から見て取れます。
彼女は、1940年代くらいまで、こういった時代の先端の型を貪欲に学んでいます。つまり「守」の時代です。ただ、決して先人の型を模倣しているわけではありません。常に、初期に芽生えたなんとなくの「自分らしさ」に照らし合わせながら、型を吸収しているのです。
● 「破」の時代:40年代~60年代
40年代の終り、たまたま博物館で見た新石器時代の土器の壷にインスピレーションを受け、そこから独自のスタイルが展開しました。初期に芽生え自分らしさと、それまで吸収した型、そして新石器時代の土器の影響などがうまい具合に融合し発展していくさまが、その時期の作品に表現されています。
「型」を基盤に置きながら、自分のスタイルが確立するまさに「破」の時代です。誰が見てもルーシー・リーの作品だとわかる、オリジナリティあふれる作品ばかりです。しかも、ひとつのパターンだけではなく、いくつものスタイルを生み出しています。しかし、どれもルーシーなのです。
●「離」の時代:70年代以降
そして、それまでの蓄積が一気に花開くようです。それまでに確立したいくつかのスタイルが、何のてらいもなく自由に融合していきます。こだわりから解き放たれ、肩の力を抜いて、好きなように作品を創っていることが感じられます。形も色調も華やいでいるようです。融通無碍という言葉が
思い起こされました。まさに「離」です。面白いのは、1920年代からずっとつながっているものも、確かに見えることです。
ルーシー・リーという一人の陶芸家の生涯とその思いを、「守・破・離」のフェーズごとに観て感じることができる、とても良い展覧会だと思います。
人間にとっての「守・破・離」の意味を、あらためて考えさせられた気がします。
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