日本でベンチャーがなかなか育たない理由

近年、ベンチャーの評判が芳しくありません。確かに、上場基準が大幅に緩和されたのに乗じて、2003年頃からそれを悪用する輩がたくさんいました。それが、今のベンチャー離れを呼び、さらに反動して大企業志向が再び高まってしまう事態となったわけです。日本経済全体としては、非常に好ましくない方向だと思います。

 

ところで、日本ではベンチャーが育たないとの論はずっと以前からあります。いわく、リスクマネーが出ない、日本人は創造性が低くリスクを取らない国民性だ、大企業が本来ベンチャーを手がけるような事業まで参入する、などなどいろいろな理由が流布しています。

 

それぞれ一理あるかもしれませんが、私は大企業における意思決定の方法に大きな理由があるのではと考えています。

 

ベンチャーを起こし成長させるには、既存企業(特に大企業)との取引が欠かせません。既存企業の担当者に、なんとか高い評価をもらったとしても、その担当者が上司やそのまた上司に決裁を仰ぐ必要があります。いわゆる稟議制度です。彼らを説得させるのは、簡単ではありません。

 

ここで二つのパターンがあります。現場の担当者の申請をほぼ、無条件に決裁する上司(めくら判)と、重箱の隅を突くようにだめだしをする上司です。

 

前者の上司は部下を信頼しており、大枠のみしかチェックしません。後者の上司は、自分の存在意義は否定することだとでも思っているかのようで、リスクの最小化が判断基準です。したがって、ベンチャーとの取引は、真っ先に否定されるべきものです。それを慮って、部下は上司にリスクの低い申請しかしなくなります。

 

前者の企業が相対的に多ければ、ベンチャーが伸びる余地が大きいといえるでしょう。しかし、現実はまだまだ後者が大半を占めるのではないでしょうか。

 

コンプラなどのリスク対策の重要性はますます高まっています。その意識が、通常の取引選定にまで影響を及ぼしているとしたら、ますますベンチャーの芽は摘まれることになるでしょう。

 

 

戦後、ソニーやホンダといった当時のベンチャーがたくさん輩出されたのは、高成長を続ける経済のもとでは、上司は部下に任さざるをえなかったからかもしれません。今の中国がきっとそうですね。もし、そうなら今のようなデフレ経済では、ますます成長しづらいという悪循環にはまりそうです。

 

 

私は周囲を巻き込む稟議制度は日本人に合っていて、悪い制度ではないと思っています。しかし、それがスピード感や変化対応力を弱めたり、ベンチャー育成を妨げるのであれば、仕組みを変える必要がありそうです。でも、それは非常に難しい。

 

 

 

では、どうするか。意思決定する際の意識に働きかけたい。それは、日本における大企業を頂点にしたピラミッド意識(それはある種の差別意識かもしれません)を払拭することです。

 

そのためには、大企業に、ベンチャーの力を取り込むことで大きな価値を生み出しうることに気づかせることが近道と思います。ベンチャーを保護するという意識ではなく、合理的に活用する道を示すのです。トヨタの米電気自動車ベンチャーのステラ・モータースへの出資が、その魁になればと思っています。残念ながら、相手は米国企業ですが・・。

 

 

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このページは、福澤が2010年6月 1日 16:39に書いたブログ記事です。

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