未開の国を訪れた二人のビジネスマン。住民が全員裸足なのを見て、ひとりは、ここでは靴は売れないと嘆き、もう一人はここには靴の大市場があると驚喜した、というたとえ話は有名ですね。同じものを見ても、人はそこに異なるものを見ることの例えです。
この話を聞くほとんどの人は、「そりゃそうだ」と思うでしょうが、ビジネスの世界でその教訓が活かされているとは、なかなか思えません。
ある事業を始めようと提案を上げてみると、上司はこう答えます。
「なんで、そんな魅力的な市場なら、カネも技術もある既存大企業が参入しないのだ。それだけ、魅力がないということじゃないのか。」
また、既存大手参入している市場に、切り口を変えて参入することをまた上司に提案すると、
「そんな大手が参入している市場に入ってどうするんだ。切り口を少し変えてみたところで、すぐ真似されるぞ。その後は、物量作戦で木端微塵だ。」
どちらの上司の言い分も、一理ありそうではあります。でも、それでは、新規事業などするなということになります。なんか、おかしいですね。
管理職向け研修などで、SWOT分析がよく使われます。強み、弱み、機会、脅威を分析して戦略を策定してみようというパターンです。受講者が書く分析内容は、ほとんど差がありません。どの項目についても、社内での定説というか常識みたいなものがあるようです。「ウチの強みは技術開発力で、機会は中国市場の急拡大だ。技術力を活かして、中国市場へ打って出よう」みたいな。
それはそれで意味がないとは言いませんが、競合もきっと同じようなSWOT分析をしていることでしょう。大事なのは、自社にとっての意味のある見方であり解釈です。さっきの新規事業提案の例でいえば、既存大企業にはXXと見える市場が、我社にはYYに見えるという解釈です。その解釈する力こそを磨くべきです。
経営環境を分析しようとしても、経営環境という実体はありません。10人の盲人が、大きな象を触ってみて、それぞれ全く異なる生き物を想像するのに似ています。そこに、想像力を働かせて創造する余地があるのです。
「この島が靴の大市場になる」姿が「見えて」しまう人間が、イノベーションを引き起こしてきたことを忘れてはいけません。
ただ、「見たいこと」のみが「見えて」しまい、「見た」と確信することが、世の中にはあまりに多いことを認識しておくことも必要でしょう。客観性は大切です。
客観と主観とのバランスをとること、すなわち環境に適合するロジックと、環境を想造(イナクト)し自ら描く想像力、これらのバランスを取っていくことが、マネジメントなのかもしれません。
コメントする