イナクト(Enact)と対話が戦略を創る

SWOT分析などに基づいて、環境に適合すべく戦略を策定し、実行するのが常識とされています。いわば、環境に反応(react)するわけです。でも、それでいいのでしょうか?

 

 スーパーホテルというチェーンがあります。朝食付き4980円という低料金でありながら、日本初の顧客満足度指数ランキングでトップとなったホテルチェーンです。

 

2000年に入り35店舗を超えたあたりで、経営数字が悪化しました。稼働率が下がり、クレームが急増。社歴の浅い社員は管理の真意がわからず、現場は荒れていく。まさに、バッドサイクルです。

 

顧客の高い要望に応えサービスを向上させることが、正しい環境適合戦略に見えそうです。しかし、それは必然的に価格を上げることになるでしょう。

 

苦境に陥った山本社長は、「話し込み」と名付けた対話を奨励し、自らも従業員の中に入っていきました。すると、教えるはずが教えられることばかりだったそうです。「ベッドの下にゴミが落ちていた」というクレームには、「だったら、足を取ってしまえ」という声に従い取ってしまった結果、大幅に掃除が効率化された。

 

また、ごみ箱はコンビニで買った空き缶の山だったそうです。他店から出たごみ掃除だけをやっているわけです。それに対して、「自販機の飲み物をコンビニより安くしよう。」すると、夜には近所の主婦がわざわざ飲み物を買いにくるようになった。(日経ビジネス 2010.4.12号より)

 

ゴミが落ちているから掃除を丁寧にする、というように反応するのではなく、ゴミが落ちる「環境」に対して働きかけを行い、結果的に成功を納めたわけです。いつもうまくいくわけではなく、「アイデアはまず各店で試してみる。まあ、9割はボツです。でも、話をする空気が生まれる。そして、経験が埋蔵金のように後になって効いてくる。」こうして、苦境を脱したそうです。

 

 

このような、まず何か環境に働きかけてみることを「イナクト(想造)」といいます。そして、うまくいくものを探して選択する。振り返ってその行動に意味付けする。実は、日本企業では、そのようにして戦略が生まれてくるような気がします。前もって戦略策定し、それがうまくいったケースはあまり聞いたことがありません。多くは、苦し紛れの後付けなのです。

 

そこで大事なのは、山本社長が始めたような現場の従業員との対話です。日本の組織の強さは、そこにあるのだと思います。

 

 

ところで、このホテル、ブルー・オーシャン戦略で分析してみても面白そうです。

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このページは、福澤が2010年5月 6日 18:09に書いたブログ記事です。

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