「思考」にご用心!

先日、ある美術館で絵を見ていました。あるとても有名な絵の前で、ご婦人がこういいました。「あっ、この絵、先週TV番組で紹介されていた。」また別の絵の前で子供がこう言いました。「この絵、教科書にあった。」

 

街で、TVで見たことのある芸能人を見かけたら、大抵の人はこういいます。「あの人、この前TVで出ていた人だ。」

 

これらは、思考の特徴を現わしています。物理学者のデヴィッド・ボームは、それを「断片化」といいました。思考の特徴の一つは、何かを他の多くのものと分離したがることだそうです。展覧会の多くの作品群から、知っている作品を分離させるはたらきです。もちろん、知っているかどうかだけでなく、他の基準で分離することもあるでしょう。たとえば、「これは最晩年の作品だから、他とは色調が全く異なる」といった分離もあります。ただ、そんな込み入った分離より、知っているかどうかで分離するほうが一般的でしょう。分離することによって、人は安心できます。

 

これだけなら大した問題はないでしょうが、ボームによればさらに進展があります。ひとは、分離し区別したものに、盲目的に重要性を与えてしまうというのです。知っている作品、見たことのある芸能人が、他の多くよりも重要、あるいは優れていると認識してしまうのです。

 

もちろん、番組で取り上げる有名作品は、きっと素晴らしい作品なのでしょう。だからと言って、それがその他の作品より優れているという証拠にはなりえません。その認識によって、自分にとってさらに優れた(と感じたかもしれない)作品を隠してしまうことにもなりかねません。そこに問題があるのです。

 

 

一度、この認識が出来上がるとなかなかそれを覆すことができません。特に、その思考プロセスが集団で行われると、さらに強固なものになります。

 

思考が分離を生み、分離が崇拝/防御を生み、防御が排斥を生むことにもなります。それが組織運営に絡んでくるとやっかいです。「縄張り意識」や「主導権争い」「政治闘争」となってしまいかもしれません。これは、本質から起きた現象ではなく、あくまで思考が創りだしたものです。第二次世界大戦下のナチス・ドイツや大日本帝国もそうなのかもしれません。

 

また、思考はプレッシャーに弱いため、強いプレッシャーのもとでは適切な思考ができず、悪い方ばかりを考え防御的になってしまいます。それは、(生存)本能にそうプログラムされているからのでしょう。

 

 

このように、「思考」とは恐ろしい面や、いい加減な面も持っているのです。そのことを十分認識して、「思考」していきたいものです。

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このページは、福澤が2010年4月 9日 16:40に書いたブログ記事です。

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