情報の非対称性:研修を実施する企業VS講師 を例に

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有名な中古車市場の例です。販売会社は、売り物の中古車の性能や履歴を把握していますが、買い手は情報を持っていません。すると、買い手はどんなポンコツを掴まされるか分かったものではないので、出来るだけ安く買おうとします。

 

販売会社が、これは高品質なんだといくら説明しても、疑いははれません。その結果、低品質の中古車のものに収れんしていってしまいます。そうなると、高品質の中古車は、市場に出回りにくくなり、結局市場は破たんします。これが、情報の非対称性の問題です。

 

もし、ほとんどの販売会社と買い手が長期的取引で成果をあげているのであれば、大きな問題にはなりません。しかし、市場が急成長しているような時期であれば、hit & awayの悪徳販売会社も生き残るチャンスがあるわけです。

 

 

その対策には、シグナリングとスクリーニングがあります。研修講師と研修を実施する企業の関係で考えてみましょう。

 

    シグナリング(情報優位者による)

講師はもちろん自分の実力を把握しています。一方、初めて依頼することを検討する企業は、講師の実力の情報を持っていません。優秀な講師は、ポンコツ中古車と一緒ではないとの情報を提示しなければなりません。本来、そのような場合に有効なのは、資格制度です。大学教員も、研修講師も、日本では資格制度はありません。多くの他の業界では、業界団体や一部の目端の効く人が認定制度を自主的に制定し、運営しています。が、その信憑性は、?のものも多いようです。

 

そこで、reputation(名声/評判)を頼ることになります。過去の顧客リストや、著作物などを提示します。かつては、著作を持つことはそれなりの名声になったようですが、現在では、出版社によってはお金次第です。なので、講師が良いシグナルを発するのは決して容易ではありません。結局、講師の属する研修ベンダーのreputationに依存することも多いようです。

 

そこには、モラルハザードが生まれる余地があります。つまり、講師にとって、研修ベンダーのreputationがあるのだから、それほど一所懸命に準備しなくてもなんとかなるとの甘えが発生する可能性です。それを防ぐには、研修ベンダーの厳しいチェックとフィードバックが欠かせません。ただ、それには多大な手間と評価者の高い能力が必要で、非常にコストがかかります。(受講者アンケートは、一側面しか評価されません)なかなか、難しい問題です。

 

●スクリーニング(情報劣位者による)

企業側は、面談や講師にデモを実施してもらってテストすることができます。あるいは、研修の目的やゴールイメージ、受講者の特性などの詳細情報を提示し、それに対してどのようなアプローチを講師が取ろうとするかを提案させることができます。提案内容をみれば、その講師がどの程度のレベルなのか、またどの程度コミットしてくれそうか、などの情報を入手することができるでしょう。つまり、情報開示させる機会を用意するわけです。

一見、良さそうな解決策ですが、これも容易ではありません。企業側が、まず適切な情報(企画内容等)を講師に提示できるか、また講師の提案やデモを正しく評価できるか。もしそれらができなければ、「優秀な講師」はその提案やデモという手間をかけようと思わなくなってしまう可能性もあります。つまり、評価する側の能力が問われるわけです。

 

 

このように、情報の非対称性は、なかなか手ごわい問題です。でも、そこのソリューションを見つけ出していかなければ、市場はいびつになり、いつまでたってもあやしい業界と見なさ続けることになるでしょう。

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このページは、ブログ管理者が2009年12月 3日 19:55に書いたブログ記事です。

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