日経朝刊の「やさしい経済学―日本の『長い近代化』と市場経済」(by東京大学中林真幸准教授)が面白いです。
明治・大正期に日本の輸出を支えた製糸業は、女工哀史で有名ですが、実は現在の経営に通じる多くの革新がなされていました。そこに、今の経営問題へのヒントもたくさんありそうです。
昨日の稿によると、糸の品質を向上させ、輸出競争力を高めるために、全量検査を取り入れました。それはすなわち、女工の能力を計測することにつながります。生産性を上げるために、徹底した成果主義が採用されました。生産性が高いものは、男性監督官よりはるかに高い賃金が支払われました。それが全体的な品質と生産性の向上につながり、全体の賃金水準も向上したのです。
ここでの示唆は、成果主義を採用するには、成果測定に費やすコストと人件費総額の増加を前提にしなければならないということです。バブル崩壊以降に広まった日本企業の成果主義とは、成果測定をあいまいにし、また総額人件費の増加は覚悟していなかったでしょう。逆に総額を抑えるための成果主義と判断されても仕方のない運用だったと思います。その揺り戻しが、現在来ているのです。形だけ真似ても魂が入っていない典型と言えるでしょう。
今日の稿には、当時家事という個別スキルしか持てなかった女性が、上記のような成果主義の職場を獲得することにより、「亭主持ちの窮屈」を「忍ぶ」よりも、「自働自営」の「気楽」を選ぶようになったとあります(「信濃毎日新聞」1893年8月26日号より)。100年以上も前の記事です!!
また、女性をサラリーマンと読むこともできそうです。これまで終身雇用先企業における個別スキルのみを磨いてきた社員が、市場で評価される普遍スキルの獲得を目指し、労働市場へ参入する。これは、歴史的な流れの一部なのでしょう。ただ、女性の「婚活ブーム」は、その流れに逆行しているように思えますが・・・。
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