これまで何度か、海外駐在者への教育について、企業の人事の方に話を伺う機会がありました。一般に、派遣前トレーニングをする時間的余裕はなく、最低限の内容になりがちだそうです。
1) セクハラ、パワハラなど、法務に関する知識
2) 税務処理など会計に関する知識
3) 派遣先の文化や慣習の知識
4) 元駐在者による、体験談
5) 簡単な外国語(ほとんどは英語)のレッスン
だいたい、こんな優先順位のようです。ほとんどマイナスの可能性をゼロにするための訓練です。優先順位が高いのは当然です。
次に、駐在を終えて帰国した社員(マネジメント職)に、何が困ったかをヒアリングすると、
1) ローカル社員とのコミュニケーション(特に評価に関するもの)
2) ローカル社員の動機づけや育成
3) ゼネラルマネジメントに関する知識やスキル
このような項目が多いそうです。
さらに、では何を派遣前にトレーニングしておけばよかったですか?と問うと、大方の人は、実際現地に行って体験してみなければだめだ、と答えるそうです。その結果、せいぜい体験談となるのでしょう。
しかし、本当にそれでいいのでしょうか?
ある人の体験談を聞いて、これからの自分の行動に役立つように解釈し、咀嚼できる方は、そう多くはないと思います。また、話す側も、自分の苦闘した経験を、どう言語化し、どのように伝えれば、これからの人に役立つかを整理出来る方は、やはりそうはいないでしょう。
多くの方の経験や知識も、いったん概念化した上で、聞き手の状況や認識に適合するような方法で伝えることが必要だと思います。受け手の学習となり、行動を変えることが目的です。これも形式化なのかもしれません。人間は、感情に訴えるような物語のほうが刺さる場合もあれば、概念化されていないと受け止められない場合もあります。
その違いは、受け手側に受け止めるに必要な基本知識や経験がどれだけ共有されているかだと思います。たとえば、ヤマトでは、宅急便での「嬉しかったこと」を集めビデオ化し、研修で活用しているそうです。同じセールスドライバーの経験を持つ他の社員には、その物語が、本当に刺さるそうです。
これから海外に派遣される社員にとって、体験談という物語では、響かないのではないでしょうか。想像力が働かないのです。だから、概念化が必要なのだと思います。
このことは、海外派遣者だけのことはなく、あらゆる人材・組織開発の場面でも共通する課題だと感じています。
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