「場」の力:普通名詞と固有名詞

先日、野中郁次郎氏による賢慮型リーダーの6要件を転記しました。その中に、相互作用を促す「場」をタイムリーに設ける、というものもありました。

 

「場」については、私も関心が高いので、もう少し書いてみます。特に日本で場の概念が注目されるのは、西洋科学の前提となっている「自他分離」に対する違和感があるからだと推測します。

 

さて、私たちは、心身を投げ出しながら、コミュニケーションを行っています。一般に、このように身体性を入れ共創的コミュニケーションを行う「共創の舞台」のことを「場」と呼びます。場の最大のメリットは、コンテンツだけでなくコンテクストを生み出すことです。

 

重要な会議では関係者を参加させ、巻き込んでおこうとするのは、コンテクストを共有させるためです。もちろん、形式的に場を共有するだけではだめです。本来は、自他非分離の状態をつくらなければコンテクストの共有も創造もできません。

 

「場」の例をひとつ挙げてみましょう。

 

私も採用面談を、もう何百回もしてきました。限られた面談時間の中で、その方の能力や人間性を測ることは容易ではありません。もちろん、職歴や学歴などからおよその評価はできます。しかし、これでは本当の力はわかりません。それでは、あくまで「普通名詞」で見ているに過ぎないからです。知りたいのは「固有名詞」です。さまざま経験・歴史を経て今そこにいる世界に一人しかいないその人、つまり固有名詞で認識しなければ採用の判断などできないはずです。なぜなら仕事は固有名詞でするものだからです。

 

では、面接会場でどうやって固有名詞を引っ張りだすか。方法は一つしかありません。こちらが固有名詞としての自分自身を「一人称の経験」を語りながらさらけ出すのです(それに時間をかけすぎ、聞く時間がなくなってしまうという失敗もありましたが)。まず、自分が心を開き、相手が開くのを促すのです。互いに心を開いて相手を受け入れることによって、心が触れ合い自他非分離の状態が生まれます。これをエントレインメント(相互引き込み)といいます。ダイアローグ(対話)も、このプロセスを促す方法のひとつでしょう。このような作用が働いているのが「場」なのです。

 

このような「場」を、あらゆる場面で必要に応じてタイムリーに設けることができたら、なんと素晴らしいことでしょう。組織やコミュニケーションの目指す、一つの方向だと思います。

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このページは、福澤が2009年10月26日 12:40に書いたブログ記事です。

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