一般的な言葉となってきた「人材開発」ですが、Human Resource Developmentの訳語だけに、その定義が意外にあいまいではないでしょうか。
ここでは、あくまで私の定義を述べたいと思います。狭義の定義は、「人材が本来もっていた能力を顕在化させること」です。たとえるなら、不動産開発です。
数年前まで、東京駅前の一等地には、歴史ある複数のビルが建っていました。小津安二郎の映画のシーンに出てくるような古式ゆかしいオフィスは、個人的には嫌いではありませんでしたが、あの土地の潜在力を活かしているとはいえませんでした。その後、開発が進み今やオフィスのみならず商業地としても、価値は飛躍的に高まりました。このように、本来持っていた価値を顕在化させることです。
もう少し広い定義は、「人材に新たな『何か』を付加することにより、本来もっていた価値をさらに増大させること」です。たとえるなら、「村おこし」でしょうか。
以前ブログにも書いた越後妻有での
「大地の芸術祭」や直島です。過疎の進んだ山村や島を、現代アートの力を使って再生させています。山村にアートが必要なだけではなく、アートにも山村が必要です。両者の接点に、新たな価値が生まれるのです。
次は、ビジネスの事例です。先日お会いさせていただいたあるグローバル企業の人事トップのお話によると、現在最も緊急性の高い人材開発上の課題のひとつは、技術者の交渉スキルだそうです。ちょっと、意外かもしれませんが、グローバルに競争しているメーカーでは、自社の技術だけで完結できることは、ほとんどなくなりつつあります。他社との提携によって、技術を組み合わせ、より付加価値の高い製品を開発していく必要があるからです。
その際、その交渉にあたるのは多くの場合、その技術を最も深く理解している技術者にならざるを得ません。しかし、いうまでもありませんが交渉は技術知識だけではできません。その提携が企業経営に及ぼすあらゆる影響を検討しなければなりません。会計や財務、税務、法務などの一定の知識も必要になってきます。そして、何より交渉のスキルが求められます。交渉の巧拙により、数百億円の損害が発生するような可能性も、逆に数百億円の利益を生み出す可能性もあります。
したがって、技術の専門性に加え経営全般や交渉スキルといった、新たな「能力」を付加する広義の人材開発が必要なのです。
狭義の人材開発は、どちらかというと長期・全社視点で取り組むべきものです。広義の人材開発は、より短期的・事業レベルで発生することが多いでしよう。こういった現場でのニーズに効果的に応える機能の強化こそが、企業の潜在能力を最大限発揮させるために、非常に重要なのではないでしょうか。
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