MBAと日本企業の関係

先日の日経「やさしい経済学」で、こんな記載がありました。

 

米国では学歴として経営学修士(MBA)などの大学院卒が非常に高く評価されているが、日本では少なくとも文系についてはそうとは言えない。日本では、大学院卒はより高い生産性を示すシグナルであると雇い主である企業や組織からはあまり考えられておらず、生産性の高い学生たちが必ずしも大学院に進学しない状況が生じている。(学習院大学教授 神戸伸輔)

 

MBAについては、残念ながら確かにその通りだと思いました。つい最近、あるハーバード・ビジネス・スクールMBAの経営者が、若手ビジネスパーソンから質問されました。「これからビジネススクールに行こうかと考えていますが、MBAは日本の企業でどう評価されるのでしょうか?」

 

回答はこうでした。「日本企業では、MBAが仕事ができるなんて幻想は抱かない。ただ、リスクを取って自分に投資するガッツは評価するかもしれない。」

 

 

このような事例から、MBA(日本・海外問わず)のイメージと実態が乖離している事象が浮かび上がります。

 

個人には根づよいMBA願望があるようです。それは、「MBA=企業から評価される」とのイメージがあるからでしょう。高い留学費用を回収するには、収入が大幅に上がることが前提となります。それを期待しているのです。また同時に、MBAが職業の選択肢を広げると期待しています。

 

かつて、その期待も一部満たされていました。日本に進出した外資系企業が、優秀な日本人社員を確保するために、相対的に高額給与で大量の中途採用をしたからです。そこに、日本人MBAホルダーが吸収されたのです。

 

では、なぜ外資系企業は、あえてMBAホルダーを選んだのか。生産性が高いと判断したのか。もちろん英語力もありますが、MBA以外になかなか優秀な日本人社員を採用できなかったからのようです。ある意味消去法だったのかもしれません。ある外資系企業人事部長がこう言っていました。「MBAホルダーが欲しいんじゃない。優秀な日本人が欲しいんだ」

 

 

さて、今はどうか。受け皿となっていた外資系企業の多くは、人員削減や日本からの撤退を行っています。イメージを支えてきた要因の一つがなくなりつつあるのです。世界経済における日本市場の影響力を考えれば、その傾向は強まりこそすれ弱まることはないでしょう。つまり、イメージがはがれ、実態が表出してきています。

 

 

そもそも日本においてMBAは生産性が高いと評価されないのは、日本でのビジネスへの有効性という面で教育内容に問題があるか、日本企業の体質が特殊だからでしょう。

 

個人の側は、費用対効果に見合う大学院(ビジネススクール)かどうか、教育効果を冷静に見極めなければなりません。あるいは、別の選択肢は、MBAが良いシグナル効果を発揮する日本以外で働くか、自ら起業することです。

 

一方、日本企業で働く可能性の高い日本人を多く抱える国内のビジネススクールは、本当に生産性が向上するような教育内容へと改善しなければなりません。そのためには、何をしたらいいのでしょうか?過当競争に陥りつつある中で。

 

もう一つ考えるべきは、日本企業が(既存カリキュラムの)MBAを評価するような体質に変わっていくかどうかです。少なくとも、欧米ではMBAは高い生産性のシグナルとなっているのですから、不可能ではないでしょう。教育内容が変わるか、企業の体質が変わるか、いずれも困難な道には違いないでしょう。

 

 

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このページは、福澤が2009年10月 3日 14:45に書いたブログ記事です。

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