おもてなし

これまで、数多くの研修現場に立ち会ってきました。成功したといえる研修を一言で表現するならば、教室という空間の中で、講師と受講者、そして受講者同士が、相互に影響を与えあい、高め合っていく場だといえるでしょう。

 

これが実現するためには、講師の力量は当然として、企画者と講師による周到な用意が欠かせません。

 

しかし、意外にその用意の価値は評価されず、実行されることも少ないように思います。費用対効果はとても高いにも関わらず。

 

 

 

ここで思い出すのが茶道における「おもてなし」です。茶道では、「おもてなし」の構成要素を、「よそおい」「しつらい」そして「ふるまい」としているそうです。

おもてなしの心.jpg 

「よそおい」...「装い」、身なりを整えたり、身を飾ったりすること。また、その装束や装飾。身なりや外観を整えること。美しく飾ること。更に、目にしたようす。おもむき。風情(ふぜい)。一生懸命になって飾り整える...これがおもてなしの第一の要素。

 

「しつらい」...「設(しつら)え」。しつらえること。用意。準備。(「室礼」「補理」とも書く)平安時代、宴・移転・女御入内などの晴れの日に、寝殿の母屋や庇(ひさし)に調度類を配置して室内の装飾としたこと。

 

「ふるまい」...振る舞うこと。挙動。また、態度。ごちそうをすること。もてなし。供応。

 

 

おもてなしとは、相互信頼に基づく濃密なコミュニケーションを促すための仕掛けともいえるのでは、ないでしょうか。そこでは、主人がお客をもてなすという片務的な関係ではなく、相互依存関係なのだとおもいます。主客一体となって、ともに「場」を創り、その「場」がそこにいる人々に好ましい影響を与える。こういう場を創ることをリードするのが主人の役割なのでしょう。

 

 

研修の場で考えてみましょう。研修では、受講者同士が初対面であることが普通です。所属企業も、別々であることも珍しいことではありません。従って、いかに迅速にチームとしての一体感を醸成するかが、最初のポイントです。また、一刻も早く、講師に対する信頼感を持ってもらうことも大切です。

 

 

「装い」の観点では、受講者にドレスコードを課すことも有効かもしれません。その研修のテーマに合致するような色を最低一点使用するなどでもいいです。それで、ぐっと距離感が狭まります。講師の服装も重要です。その場で、「こういう存在だと認識されたい」というメッセージなのですから。必ずしも、スーツにネクタイがいいわけではありません。

 

「しつらい」の観点では、教室のレイアウトは当然として、照明、音楽、花などの装飾、飲食サービスなどなど、考慮すべきことはたくさんあります。ランチをどう提供するかも、午後のセッションの効果に大きく影響します。

 

「ふるまい」の観点では、この研修の場では、どのような「ふるまい」や行動が奨励されるかを、明示し共有することかもしれません。もちろん講師が率先垂範します。研修のテーマにもよりますが、「否定ではなく、アドバイスをする」「よく聞いた上で、主語を自分にして発言する」「意見を述べたらかならず、なぜなら・・・と理由を加える」「グループ代表者の発表には、拍手で敬意を示す」など、この場での「お作法」の合意と徹底です。

 

 

こうした、おもてなしの心を研修に活かすことは、これまであまり考慮されていなかったように思います。考えていたとしても、「受講者が気持ちよく時間を過ごせるように、至れり尽くせりのサポートをする」のが、おもてなしとだと。それも大事なんですが、それでは付加価値は生みません。

 

「研修効果を決めるのは講師や教材といったコンテンツの選定であり、その他のことはおまけ、アシスタントに任せておけばいい」という暗黙の前提もどうやらあるようです。

 

コンテンツを効率的に注入する工場のような無味乾燥な研修の場では、学ぶインセンティブも、なかなか湧いてきません。費用対効果を上げるために、やれることは、まだまだたくさんあります。

 

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このページは、福澤が2009年9月 7日 16:12に書いたブログ記事です。

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