先週開かれた「加藤周一さんお別れの会」で、大江健三郎さんが『日本文学史序説』にある留学時代の森鴎外がナウマンに反論した話を引いて、
「相手を完全に理解せよ、そして自分の弱点を見抜け」
という加藤さんの言葉を、若い人へのメッセージとして紹介されました。
私は、『日本文学史序説』を読んでいないので、大江さんの意図を正しく理解していないかもしれませんが、とても重たい言葉だと思います。相手を理解しようとすることはできます。しかし、人間は、自分の思考を通してしか理解できないため、完全に理解することなど不可能と思えるほどです。
では、どうすべきか。相手を理解する前に、起点となる自分自身を理解しなければならないでしょう。特に、人は自らの弱点には目をそむけがちです。だからこそ、知らず知らずのうちに、自分の弱点からゆがんだ形で相手を理解してしまうのです。自分が潜在的に弱いと感じている部分が、相手は強いと感じると、無意識に抵抗してしまうことってありますよね。そうならないように、弱点を中心に自分自身の思考特性を見抜いておくべきなのです。
さて、自分や相手を理解するにしても、どのような面を理解すればいいのでしょうか。「私は、○○な傾向を持つ人」、と言ってみても、そこには無限の切り口があります。状況によって、切り口を使い分けるのが好ましいのかもしれませんが、私を含め多くの人はそれほど器用ではありません。そこで、何らかのフレームワークが欲しくなります。
抽象的な思考が好きな人と、具体的でないと思考できない人がいます。また、論理的思考が得意な人と、直観的に思考するタイプの人がいます。この二軸で、思考タイプを分類することは、説明力が高いような気がします。
また、人間は、思考特性とともに行動特性も持っているでしょう。行動の癖を理解しておくことは意味があります。思考は簡単には見えませんが、行動は一目瞭然なので、即相手に影響を与えるからです。相手に対して本当の自分を表現できるか、高いエネルギーレベルで相手に向かうことができるか、一方、時に自分を抑え相手を受け入れることができるか、こういった他者に対する行動の癖を知っておきたいものです。
大人とは、自分自身と相手を、(思考と行動特性にとどまらず)深く理解し、適切な対応を取ることができる人のことをいうのかもしれません。道は遠し、です。
(尚、上記の思考特性と行動特性については、「エマジェネティクス」http://www.egjapan.net/で学びました。)
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