チャレンジのまぶしさ

年末年始は普段観ないTV番組をたくさん観ました(ほとんどNHKですが)。その中でふたつの番組が目をひきました。ひとつは、料理研究家の栗原はるみが、イギリスの一つ星レストランで一週間だけのコック修行をしている様子を追ったもの。もう一つは、盲目のピアニスト辻井伸行が自作曲作りをする姿を追ったものです。

 

両者に共通するのは、一見不必要に見えるチャレンジをする姿勢です。

 

栗原は既に64歳。日本で最高峰の人気を誇る料理研究家です。もう十分成功したと言えます。でも、彼女はこのままではいけないと考えたようです。きちんとした調理の修行もせず、主婦の延長線上でここまで登りつめ

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た栗原は、お金を払ってもらって顧客に料理を提供する経験がありません。そこにコンプレックスなのか、欠乏感なのかよくわかりませんが、ぽっかり穴が空いていると感じたようです。その穴を埋めるべく、ロンドンのソーホーで人気の37歳のオーナーシェフが経営するフレンチレストランでの短期修行を敢行します。

 

息子か孫の世代のコックたちが、生き馬の眼を抜くように働き続ける厨房。ありがちなタレントが体験修行する設定ではなく、まがりなりにも料理の道の専門家が挑むのです。挑むといっても下働きくらいしか、させてもらえません。60歳から習い始めたという英会話も、なかなか堂にいっていますが、容易には伝わりません。TV番組とはいえ、生易しいものでないと想像できます。どこの国でも職人の世界は同じ。34歳の料理長は彼女のかけた言葉を無視したりします。ただ、最終日には、彼も心を開いて彼女のつくる料理を誉めていました。

 

わずか5日間の修行ですが、お金をもらって料理する大変さを痛感するのと同時に、その喜びをも感じ取っていました。映像では、後者のほうが圧倒的に大きいように見えました。それを語る彼女の姿は、本当にいきいきとしてまぶしく見えました。この経験で、彼女のこれからの仕事は、一回りも二回りも大きくなることは間違いないでしょう。

 

 

一方の辻井は23歳。2009年にクライバーン国際ピアノコンクールで優勝し、3年間の世界ツアーを約束されています。その高い技術は世界中で絶賛

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され、スケジュールはいっぱい。それでも、彼は自作曲に取組みます。自分をさらに成長させるには、演奏とは異なる形で自己表現する必要があると考えたようです。201111月のNYカーネギーホールでの単独リサイタルで、自作曲を披露することに決めます。

 

当たり前ですが、演奏と作曲は別もの、別の才能と鍛錬が必要です。即興で作曲した演奏は、以前から好評でしたが、きちんと作曲するのはまた別ものです。その勉強にと、作曲家でピアニストの加古隆を訪ね、教えを請います。

 

そこで、作曲の際、左手で和音を弾くのやめさせ、右手だけで弾きながらメロディーを創ることを指導されます。すると、それまでは、溢れるように湧いてきたメロディーが全く浮かんでこなくなってしまいます。そんな自分に、彼はパニックに陥ってしまったように見えました。加古は、優秀な辻井に、曲を創り込むことの大切さを伝えようとしたのでしょう。

 

辻井は、映画音楽の作曲にもチャレンジ。盲目の彼は、監督から言葉で映像イメージを伝えられながら、その場で作曲していきます。しかし、監督からはダメだしが続きます。そして苦闘、観ているこちらがつらくなってしまうほど。なぜ、そこまでして作曲をするのか、疑問を感じずにはいられませんでした。

 

昨年11月のリサイタルは大成功。アンコールで弾いた自作曲に、観衆はどよめきました。終了後、これまでにない感動を味わった辻井は、飛び跳ねて喜びを表現していました。

 

 

栗原と辻井、年齢とキャリアの差こそあれ、二人とも世間的には成功者です。でも、決して現状に満足しません。大きなリスクを冒してでも、チャレンジを続けずにはいられません。だからこそ、二人はそれぞれの道を究めることができるのでしょう。

 

その尊さ、まぶしさに、心を揺さぶられ、二人の苦悩にゆがむ顔を見ながら、我が身を振り返らざるをえませんでした。2012年、二人とはあまりにレベルが違いますが、リスクを取ってチャレンジすること、それを常に忘れずに一年を頑張ってみようと思います。

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このページは、福澤が2012年1月 5日 12:08に書いたブログ記事です。

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