「掘って、上げて、つなぐ」大人の学び

自らや他者の経験から学ぶことの重要性は、いたるところで強調されていますが、実際にやろうと思うと容易ではありません。特に、長年企業で経験を積み、高いポジションにいる方は、成功体験も多いわけで、自己否定に結びつくかもしれない学びへの抵抗が強いのは当然です。でも、それではいけないとも強く思っているはず。皆、ビジネス上の悩みを抱えているのですから。

 

グループ企業を数多く抱える某大手企業から、グループ企業に経営者としてこれから派遣される方、派遣後1年以内の方を対象とした研修を、先日お手伝いしました。受講者20名は30代から50代、派遣される企業の規模も業種も様々です。

 

これほど多様な受講者を、どうひとつのプログラムで学んでいただくか、なかなか難しいテーマです。そして、結局行きついたのは、相互の経験から学びあうというアプローチです。7人程度の3グループに分かれます。Aグループはこれから出向する方、BとCは既に出向されている方で、事業の関連性が近くなるような2グループに分けました。

 

各グループにはファシリテーター(講師)が入ります。非常に難易度の高いファシリテーションが要求されます。受講者は百戦錬磨揃いで、しかも事業は様々なのですから。理屈を振りかざす講師は、すぐに見抜かれ見下されてしまいます。講師自身が豊富な経験と豊かな人間性を持っていなければ、太刀打ちできません。講師には事前に、出向先企業の概要と各受講者の問題意識を記述してもらった提出課題を熟読して臨んでもらいましたが、何が出てくるかは蓋を開けてみなければわかりません。

 

受講者が持っている宝ものを引きだして、それらを相互に提供しあうこと、そしてそこに、少しの意見と新たな視点を付与することも講師には期待されます。考えただけで恐ろしくなるような役割です。

 

結果から言えば、三人の講師は見事にその役割を果たしました。何がうまかったのか。身近で観察していた私は、共通のやり方を見つけました。それが、「掘って、上げて、つなぐ」というプロセスです。

 

前日夜宿題としてレポートを課しました。Aグループの課題は、「就任後90日間で何を実行するか」、BとCは「事業戦略を実行するための3か年計画の骨子」です。それぞれ、いくつかのサブクエスションがあります。その宿題を順々にグループ内で発表してもらい意見交換していきます。事業内容の詳細を知らない他のメンバーもコメントできるような進行が必要で、発表中も受講者や講師から適宜質問が飛ぶことになります。発表者は予想外の質問に。思わず考え込んでしまうこともあります。これが「掘る」プロセスです。

 

これでメンバーは、どんどんミクロの世界に入りこんでいきます。居酒屋談義とは、酒の力を借りて掘っていくことで、ここでは講師の適切な裁きや突っ込みが酒の代わりを果たすともいえそうです。しかし、これだけでは居酒屋談義とそうかわりません。そこで「上げる」プロセスが必要になるわけです。

 

うまく掘られたことで、メンバー間で感情面も共有された状況(共感)を、講師が概念レベルに引き上げます。講師から、「それって、ようはこういうことですよね」というフレーズ聞かれます。帰納法のように、ミクロの世界をある概念に昇華します。さらに講師は、その概念を補強するような自らの体験を加えることもあります。

 

こうして、感情面だけでなく理性面でも共有することができます。理性で共有するには、概念レベルで共有しなければならないからです。ミクロでは全く異なる世界だと思っていたことが、概念化してみれば自分が置かれている状況と同じだと理解することができます。こうして「つなぐ」ことができるようになるのです。「つなる」ことで、他者へ真剣にアドバイスできるようになりますし、またアドバイスを真摯に受け入れることができるようになるのです。

 

このような「掘って、上げて、つなげる」プロセスがあってはじめて、他者や自分の経験から学ぶ回路が通じる、そういう光景が3つのグループから見えてきました。その結果、学びの連鎖が起こり、目を輝かせて時間を忘れての語り合いが続きます。それは、後ろから見ていても素晴らしい光景でした。そしてラップアップでは、クラス全体で各グループでの学びを共有。(かなりベテランの)大人の学びのひとつの理想型のように感じました。

 

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このページは、福澤が2011年12月20日 17:46に書いたブログ記事です。

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