論点を明確にして議論する:「サンデル教授の『究極の選択』」を観て

一昨日の夜、NHKで「サンデル教授の『究極の選択』」という番組を観ました。ご存知のサンデル教授が、東京、上海、ボストンを衛星で結び、ディスカッションを仕掛ける番組です。今回は震災復興がテーマです。

 

東京だけなぜか必ずしも現役学生でないのが変でしたが、上海復旦大学、ハーバード大学の学生らが参加、サンデル教授の見事なファシリテーションで、深い議論に入り込む様子が興味深かったです。

 

サンデル教授が繰り出す質問、すなわち論点が非常に明確で、それが番組に緊張感を与えていました。

        自然災害への復興は誰が負担すべきか

        それへの補償には、被災者の被害の大きさによって差をつけるべきか

        原発災害の補償は誰が負担すべきか

        危機を引き起こした企業は救済されるべきか

        原子力発電を今後どうすべきか

        貧しい人や国に対価を払ってリスクを負担させることは公正か

 

どれも現在の日本が国を挙げて真剣に議論すべき論点です。教授は、議論を深めるため、2001年の3.11テロ被害者への補償の例、リーマンショック直後の銀行救済の例(日本のバブル崩壊後の銀行救済にも触れて欲しかった)、南北戦争での身代わり傭兵などを引き合いに出していきました。

 

学生の反応は国によって違いがあるのは当然ですが、思ったほど差は少ない印象でした。一番差が目立ったのは、原子力発電を継続させるべきかの質問。日本では半数は脱原発なのに対して、ボストンは全員が原発支持だったのはちょっと驚き。

 

面白かったのは、サンデル教授が原発支持派にした質問です。自分の住む地域に原発ができることに賛成するか?ボストンでは、支持派の半数が手を下ろしました。つまり近くではいや。東京では、支持派4人のうち一人だけが手を挙げ続けました。その理由を問うたところ、「現在の豊かな生活を維持するには原発が必要。そのために必要なら近所に原発ができるのは仕方ない」と応えました。

 

そう応えた日本人女子学生のあっけらかんとした物言いと、リアリティーの無さ、そして「仕方がない」という日本的な理由に、今の日本人の典型をみたように思います。彼女は、沖縄の米軍基地が彼女の住む東京のど真ん中に移転してきたとしても、日本を守ってもらうためには「仕方がない」と素直に受け入れるのでしょうか。

 

それから、日本人の参加者に目立った発言というか姿勢がひとつありました。それは、必ずしも教授の質問に正面から答えないで、その周辺に関する持論を開陳するだけで終わってしまう姿です。これは今回の出演者の特性ではないと思います。質問の意図がわからなくてそうなっているというよりも、正面から答えることを何となくよしとしない雰囲気があるのではないでしょうか。それが大人の答え方とでもいうように。TVの討論番組でも、パネルディスカッションでもそれが普通です。

 

そもそも今回の番組のように論点を明確にしての議論が少なすぎる気がします。教授のように論点を深堀りするような追加質問をできるような司会者(議長)もいないし。こういった風土が、現在の日本での復興の遅れや政府の混迷につながっているように思えてなりません。安定期であればそれでもよかったでしょう。しかし今は危機なのです。

 

平和ボケという言葉がありますが、安定ボケではないでしょうか。三人の日本人コメンテーターが登場していましたが、正直いる意味がわかりませんでした。そのうちの一人(彼女はバレエダンサー)のコメントが象徴的。「議論を聞いて、たくさん考えなければならないことがあることを実感しました」、なるほど、日本人の大人の問題意識レベルをあぶり出すという意味では存在価値があったのかもしれません。

 

建設的議論を忘れた国家が、どうやって危機を乗り越えるのか、歴史が示すありうる唯一の方法は独裁者への委任です。

 

話が少し大きくなりましたが、真面目な議論、真面目な対話の技術こそ、今の日本人にとって必要なスキルだと改めて痛感しました。

 

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 論点を明確にして議論する:「サンデル教授の『究極の選択』」を観て

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.adat-inc.com/cgi-bin/mt-tb.cgi/492

コメントする

このブログ記事について

このページは、福澤が2011年9月12日 15:59に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「終身雇用をどうすべきか」です。

次のブログ記事は「ヨーロッパで考えたこと」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1