終身雇用をベースにした社内ネットワークの功罪:みずほ銀行のシステム障害にみる

東日本大震災発生の4日後の3月15日、みずほ銀行はまたもシステム障害を引き起こしました。よりによって日本中がリスクに敏感になっているときに、金融の中核である決済業務が停止してしまうという、大失態を演じました。しかも、合併直後にもシステム障害を起こしたという前科がありながら。かつて富士銀行に身を置いたものとして恥ずかしい限りです。

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その原因はさまざま取り沙汰されているようですが、突き詰めてみれば三行合併の弊害だといえそうです。旧住友銀行や旧三菱銀行のように救済合併でないみずほ銀行は、三行バランスをいまだに気にして組織の一体化が図れていないのではないでしょうか。旧行意識を脱却するのは、それだけ難しいのです。旧第一勧業銀行という身近な事例があったにも関わらず・・・。

 

なぜそれほど難しいのでしょうか。旧行の組織風土が強固で、それぞれプライドも高く混じりあうことが難しいのでしょうか。そういった情緒的理由もあると思いますが、最も大きいのは終身雇用を前提とした人事管理システムの弊害だと思います。

 

慶應ビジネススクールの高木教授は、以下のように指摘しています。

 

終身雇用がある場合は、ない場合に比べて、人脈が濃密につくられる。どうしてそうなるかというと、大学の新卒を毎年一括採用することによって、「年次」のレイヤーがミルフィーユ構造のように重なっていくことによる。

 毎年それが行われると、興味深い現象が起こる。採用活動の際のグループ面接では、お互い競争相手であると同時に、同期にもなるので、お互いに品定めを始める。そして入社して何年か経つと、上の年次も下の年次も見て、次第に「できるヤツ」が特定されていく。

 終身雇用の場合はどうしても、そのできるヤツに資源、情報、チャンスが集中し、上も同期もいわゆる一目おく存在になり、みながその人とつながろうとする。今風に言えばネットにリンクを張ることと同じだ。情報量の豊かなサイトにリンクを張っておけば、訪れた人が自分のサイトにも来てくれるだろうという考えでリンクを張るが、この考え方は人脈でも同じである。

 そしてそのできるヤツが、会社の中で有力者になっていく。ただ、会社に「生息する」という言葉で表現したように、有力者は必ずしも会社にとってプラスのことばかりをやるわけではない。自分にとって、あるいは自分の回りに人にとってメリットある状況をつくろうとするのである。(中略)

 その際、終身雇用では、上から与えられたミッションを達成すればハッピーかというと、それほど単純ではない。終身雇用下で働く人は、与えられた目標を達成すれば、どうなるかを長い目で見て考える。ボスや部下との関係も含む政治力学の中で、目標達成の意味を考えるのである。

(出所:http://diamond.jp/articles/-/11544?page=5

旧行それぞれに、同期や同僚経験者を中心に強固なネットワーク(人脈)が張り巡らされ、その中での最適化を図るような行動や意思決定を取っていく。それは必ずしもみずほ銀行全体ひいては顧客に対する最適化を目指すものではない。今回のシステム障害事件も、事前に起こることを予測していた行員はたくさんいたはずです。しかし、それを指摘し防ぐべく行動することが最適行動とは判断されなかったのでしょう。

いまだに人事部は三つに分かれており、それぞれ出身行の部員が旧行行員の異動や昇格を握っているのかもしれません。上述のネットワーク原理に基づいた組織の意思決定がなされ続けているとしたら、同じような事故が再び起こることは否定できません。

 

これはみずほ銀行固有の問題ではなく、がんじがらめの社内ネットワークが競争力の源泉だった多くの日本企業(規制業界に多い)に共通だと思います。ただ、たまたまその傾向が最も強かった三行の対等合併という荒業を選択したみずほ銀行だから、その矛盾が一気に露呈されたのでしょう。

 

終身雇用や社内ネットワークの効用はこれからも存在し続けると思います。しかし、それによって失うものもますます大きくなっています。そこまでを考慮に入れて、適確な戦略や組織運営を探っていくことが今求められているのでしょう。

 

 

おまけ:昨晩、旧富士銀行の同期8人(みなOB)が集まって久しぶりに酒を酌みかわしました。共通の体験を持ちながら、現在はそれぞれ異なる分野で活躍する多彩な同期は一生の宝です。

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このページは、福澤が2011年4月13日 15:02に書いたブログ記事です。

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