無常観と復興

311日に発生した東日本大震災の余波はまだまだ続いており、なかなか落ち着くことはできません。海外の報道では、被災者の冷静な対応への感嘆の一方で、福島第一原発事故関連では過剰とも思えるほどの警戒感をもって受け止められているようです。日本に駐在する外国人の帰国ラッシュも続いています。ある企業の人事の方は、本人の意思による帰国に人事としてどう対処すべきか困っていると述べておられました。

 

このような危機的状況の下では、その国民性が如実に表れてきます。こんな時私自身、日本人のDNAを感じます。話をシンプルにするために日本人と欧米人の比較で考えてみましょう。

 

欧米は国境を挟んでの戦争の長い歴史を持ちます。地続きの隣国がほとんどですから、彼らは他国の侵略から守るために大きな城壁で囲まれた都市国家を形成しました。さらに、戦争にならないように外交戦略を駆使したり、また仮に戦争が起こっても生き残れるようにさまざまな準備をしました。武器の開発生産はもとより、効果的な防衛組織や持って逃げられる貴金属による財産保全、あるいは親族を他国に住まわせ情報網を整備するなど、あらゆる事前対応を駆使します。一言でいえば事前準備や予防に徹底的に知恵を使うのです。そこでのキーワードは、予測と戦略思考です。そう考えれば、日本駐在する外国人が避難帰国するのは当然です。

 

一方、日本は戦国時代などの一時期を除いて戦争の歴史は長くはありません。それよりも、戦うべき相手は人間より自然でした。(だからこそ普段は自然との共存を目指すともいえます)日本は古代から地震などの天災被害を運命づけられています。天災からは誰も逃れることはできません。もちろん、堅牢な家を造るとか避難訓練を怠らないとかの準備はできます。しかし、今回の地震と津波のように、人間の予測など軽く超えてしまう天災が訪れるのです。そうなると、起きることは仕方ない。起きた後にどういち早く立ち直るかが肝心です。キーワードは、無常観と一致団結した復興です。無常観は、徒然草や方丈記を引き合いに出すまでもなく日本文化の底流に確実にあります。一致団結した復興も、敗戦後は言うに及ばす95年の阪神大震災後でも本領を発揮しました。明治維新も復興だと言えるかもしれませんし、関東大震災後も帝都復興の旗印のもと東京は新しく生まれ変わりました。こういった無常観と復興の活力が我々日本人のDNAに組み込まれているのではないでしょうか。

 

したがって、欧米人から見るとなんて日本人は冷静かつ復興のバイタリティーにあふれているんだ、となります。その反面で、東電や政府に見えるいい加減な予防策や計画性の欠如、場当たり的対応、システマチックで統合された行動の欠如、などの欠陥が目につくはずです。このような日本人の特性は鏡の裏表の関係だと思われ、どちらも好ましくすることは究極的には不可能なのかもしれません。

 

 

話は少し変わりますが、この特性は企業行動やガバナンスにも見られます。欧米企業は株価を最重視します。株価とは将来の予測に基づいている指標です。それが下がるということは、将来を暗くすることであり、それを事前に防ぐために経営者をすげ替えるという外からの圧力が加わります。また一般に戦略性の高さは日本の比ではありません。

 

翻って日本企業では、株価は経営者をすげ替えるほどの圧力にはなりません。代わりに重視するのは(会計上の)利益です。赤字が続くようですと、経営者へ(空気のような)圧力が加わります。ここで間違ってはいけないのは、利益とは過去の経営成績であり未来を予測した指標ではないことです。連続した赤字は天災のようなもので、心機一転新しい経営陣の下で一致団結して復興を図り、利益を増加させていこうという、暗黙の合意があるではないでしょうか。(米国企業は四半期決算とそれによる株価変動に右往左往する短期志向であり、一方日本企業は腰を据えて長期的投資を重視するとの見方もありますが、ここではそれには触れません)

 

欧米型の株価重視と日本型の利益重視、そのどちらがいいかはよくわかりませんが、ただ言えることは、それらは単なる経営者や投資家のスタンスの違いではなく、もっと人間深くに根ざしているということです。

 

 

今回の天災は被災者のみならず、日本人全員に対して大きなダメージを与えるものです。それは間違いありません。ただ、我々が得意とする復興によって新しい日本を創りだす好機であると考えることもできるのではないでしょうか。被災者や遺族の方々の現在のご苦労を考えれば不謹慎かもしれませんが、それが亡くなった方々へのはなむけではないでしょうか。3.11後は、そういう覚悟をもって生活していきたいと思います。

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 無常観と復興

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.adat-inc.com/cgi-bin/mt-tb.cgi/438

コメントする

このブログ記事について

このページは、福澤が2011年3月24日 15:20に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「私の3.11」です。

次のブログ記事は「【被災地へ医療スタッフとして行ってきたJKTSさんの手記】を読んで」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1