なぜリスクを恐れるのか

昨日に続いてリスクについて考えてみたいと思います。

 

「最近の若い社員はリスクを取ろうとせず、目立つことを避けようとしているよう」

 

こんな声を聞くことが多くなったように感じます。以前ある研修で、普段物事を決めるときに何を基準に決めるかと問うたところ、若い人ほど「リスクを避ける」ことを基準にする意見が多く、驚いたことがあります。

 

しかし、これは若手だけの特徴でしょうか。私はそうではないと思います。全世代おしなべてリスクを避ける傾向にあるのであり、若手が目立つのは自分自身が若かった時と比べやすいためだからだと思います。

 

では、なぜどの世代もリスクを恐れるようになったのか。ひとつは時代の不確実性が高まったからだと考えます。例えば、かつては大企業に就職してしまえば、年功序列と終身雇用でほぼ一生安泰でした。つまりリスクを考える必要がなかった。従って、リスクを測る技術も不要でした。

 

しかし現在はだいぶ変わりました。秩序が揺らぎ、不確実性が高まった。ここでいう不確実性とはバラつきの振れ幅や確率も、どのような選択肢があるのかもよく分らない不確実性です。そういった環境では、リスクを測り管理するスキルが求められます。ところが、これまでそんな経験も学習もほとんど積んできていません。

 

リスクに向き合うこととは、危険を察知して避けることではありません。ハイリスク・ハイリターンとローリスク・ローリターンの大原則のもとで、自分の立ち位置を定め、それによって自ら行動を決めることです。そのためには、リスクやリターンの大きさや質、起こりうる可能性についての想像力が欠かせません。それがなければ、(一か八か以外は)結局ローリスク・ローリターンに収斂してしまうでしょう。とにかく想像できないのですから。終身雇用など期待できない時代にも関わらず、就活生が一部の大企業に殺到するのはそんな心理ではないでしょうか。

 

この想像力の欠如が、近年リスクを恐れる二つめの理由だと思います。日本の失われた20年が、想像力を抑え込んできたのかもしれません。ITバブルやホリモンブームというのもありましたが、結局多くは出る杭と見なされて叩かれました。民主党の政権奪取も、儚い夢を抱いて投票した人々を落胆させるのに十分な現状です。ほとほとさように、想像力(特にポジティブ方向に)を働かせるのはしんどい状況が続いています。想像できなければ、夢も希望も描けません。(もっと怖いのはネガティブ方向への想像力欠如かもしれません)

 

ではどうしたらいいのか。世の中のできるだけ多くの自然や物事と、体を張った(ネットの世界ではなく)相互作用を経験することで想像力を育み、その上で自らの頭で考えてリスクに向かい合うスキルを身につけるしかないと思います。逆に、最も避けるべきは、他者への追随や物真似でしょう。現在求められる、最も重要な人材育成テーマかもしれません。

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このページは、福澤が2011年2月17日 12:34に書いたブログ記事です。

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