近年、成熟期を迎えた日本企業では、管理職への昇格(ここでは昇進の意味も合わせて使います)は非常に重要なテーマになってきます。そもそも、ポストが昔のように増えない。昇格候補者に、それまで後輩を指導した経験がないものが多くなる。それどころか、入社以来ずっと最若手ですごしたものもいる。環境変化に伴い、管理職に求められる要件も変わりつつある。一方、管理職になりたがらない社員も増えている。
こんな中で適切に管理職を選定するには、従来のやり方では通用しなくなりつつあるようです。知識を問うことは簡単ですがそれでは済まず、視野の広さ、問題意識の深さ、問題発見し解決する能力、前提にとらわれず新しいアイデアを創出する能力、他者へ影響力を及ぼす能力などなど、測定が難しい要件がどんどん増えています。
管理職を絞らざるを得ないのであれば、それら測定の難しい課題を出来るだけ正確に測定し、納得感を得られるような手段を用いなければならないでしょう。
ここまでを整理すると、人事部の課題は、
①時代に合った管理職の能力要件を定義する
②それらを正確に測定する手段を用いる
③受験者も彼らの上司もその結果に納得感を得る
④落ちた者も、今後どのような努力をすれば次回合格するかの道筋が見終える
ということでしょう。特に、①と②の両立は困難です。現在の流れは、①を測定するために「論文」や事前に与えられた課題に対するプレゼンテーションなどが好まれる傾向があるようです。(それほど規模が大きくなければアセスメントセンター型も盛んですが大企業には不向きかもしれません)しかし、②を満たすことは難しい。採点者の主観に大きく依存するからです。ある実験では、記述式の問題を二人(その分野の専門家です)の採点者が採点し、その結果の差異(相関係数)は0.4~0.7だったそうです。1が完全一致ですから、半分強しか同じ評価にならなかったということです。それだけ採点者によるばらつきが大きいということです。
これも満更悪いわけではありません。もし、論文で測定したいのが、その組織のコンテクストに根ざすものであれば(極端に言えば、この人と一緒に働きたいか)、そのコンテクストを熟知した採点者が良いと評価すれば、それは「良い」のです。採点の信頼性はさほど重要ではありません。面接では主にその観点で見るのでしょう。
ところが、論文やケース・スタディへの記述式回答で、問題解決能力といった観点を測定するとなると話は別です。測りたい能力は組織コンテクストとは無関係であれば、やはり測定の信頼度が重要になってきます。(その会社における特殊な「問題解決能力」であれば別ですが)
信頼度を上げるには、最低限の条件として一定量以上の問題数が必要です。ある分析データによると、相関係数を0.7程度にするには30問、0.9にするには80問は必要だそうです。記述式試験では不可能な問題数であり、記述式試験だけでこれから求められ能力を測定することは不可能でといえるでしょう。
組織コンテクストも織り込んで測定する論文、プレゼン、面接などと、普遍的能力(知識ではなく主にコンセプチャル・スキル)を出来るだけ正確に測定する問題数の多い択一型問題の併用が望ましいのではないでしょうか。そうすることによって、③④の課題にも叶う可能性があると考えます。
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