個人の卓越した能力とチームワーク、そして短期間での後進の育成、それらをリスクを最小化しながら同時に実現していく組織、それが航空自衛隊第11飛行隊、通称「ブルーインパルス」です。そのドキュメンタリ番組を観ました。(ハイビジョン特集「天空のアクロバット~ブルーインパルスの男たち~」)
ブルーインパルスには、隊長の第1号機~6号機までの6機で編成され、それぞれの機に2名が配属されます。2名とは、師匠と弟子の二人です。驚くこ
とに隊員の任期は3年程度のようです。その間に、弟子が技術を修得し、師匠になり、また次の弟子を育てるのです。全員が優秀な戦闘機パイロットとは言え、戦闘機とアクロバット飛行をするブルーインパルスでは、異なる技術が求められるのです。以前、友人の元米空軍パイロットが、エアラインのパイロットはバスの運転手だが、戦闘機パイロットはレーサーだと言っていました。それで言えば、ブルーインパルスはF1レーサーなのかもしれません。
自分の弟子がなかなか技術を修得できない師匠が言います。「ここには優秀な隊員しか来ません。自分の教え方が悪いのだと責任を感じます。(中略)感覚の世界が大事です。言葉では伝えられないのです。『ここでビューンだ』と言ってもわかりませんよね」そこで、その師匠なりの手作りのマニュアルを作って、少しでも伝わるように試行錯誤しています。。創立から50年間の詳細なマニュアルが蓄積されていますが、それでは足りず、個人の暗黙知を独自の形式知に落とし、さらに一年間行動をともにすることで伝えるのです。
隊長の責任は、並大抵ではないようです。任期を終える隊長に、何が一番楽しかったか問います。すると、
「楽しいことはひとつもありませんでした。常に真剣ですから。楽しくなろうと努めたことはありますが
」
任務を解かれて寂しくないですか?との問いに、
「全く寂しくありません。すべてやりきりましたから」と、すがすがしいか顔で応えました。任務とともに、隊員の命を預かる隊長の重圧は、次元を超えているようです。
ラストフライトを終えた隊長に、隊員が祝福の水掛けをします。隊長の反撃し、たくさん用意されたバケツから、隊員に水を浴びせます。これが、航空自衛隊の恒例です。その後、びしょびしょになった隊長はインタビューに応えます。
「水を掛け合うことで、隊から私の色を洗い落とすような気がします。私は隊長として任務を遂行し、そのために隊を私の色に染めました。次の隊長が、今度はそれをするのです」
潔い言葉です。
ブルーインパルスは、極端に特殊な組織かもしれません。しかし、そこから私たちが学べることはたくさんあるように感じました。
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