企業は成長を追及すべきという考え方は、もはや常識かもしれません。成長を期待して株式を購入する投資家に依存する公開企業にとって、成長は義務です。いっぽう、公開していない企業では、必ずしも成長は義務ではありません。ただ、成長を経営目標に掲げる非公開企業は、決して珍しいものではありません。というより、多くはそうかかもしれません。
それは、なぜなんでしょうか。いわく、成長によって社員の雇用を維持できる、成長が社員の求心力となる、社会へ貢献するためには規模が必要、成長を止めたら競争に負けて倒れる、などいろいろあるでしょう。ひとことで表せば、ステークホルダーにとって成長が必要であるというロジックです。成長のひとことで求心力にも指針にもなるのですから、経営者にとって便利な言葉です。
でも、もしかしたらステークホルダーにとってという言い方をしながら、実は経営者にとって成長が必要なのかもしれません。M&Aを繰り返す企業では、経営者の「少しでも規模の大きな企業を経営したい」という欲求が、M&Aの真のドライバーであるとの研究を読んだことがあります。(アメリカでの研究だったと思いますが)
久しぶりに、そんなことを思い出したのは、日経ビジネス9月21日号の「六花亭製菓 成長より『愛』の異色経営」という記事を読んだからです。
「マルセイバター」を、北海道みやげでもらったことのある方は多いのではないでしょうか。それを製造販売している北海道の会社です。入社希望者への会社説明会では、「当社はもう成長しません。」と宣言しています。それは、成長できないのではなく、成長を目的としないとの意味です。成長を目的とした時点で、思うような経営ができなくなるのを恐れるのでしょう。では、成長という求心力を放棄し、何を指針としているのか。それが「愛される会社」です。
そのために、まず経営者が社員を愛する必要があります。そして従業員から愛される力を高めた企業は、顧客から愛される力を高めることになり、結果として製品のブランド力も高まるのです。
お題目だけのESやCSではなく、それを事業の根幹に据えています。経営資源配分のためにキーとする指標は、ROAでもROEでもなく「有給休暇取得率」なんだそうです。詳細は書きませんが、その他ES、CSの仕組みが、これでもかと作りこまれています。
市場至上主義(ここでの市場とは、株式市場です)の限界があらわになった現在、新しいパラダイムは、身近なところにあるかもしれません。
コメントする