秋元康、恐るべし

昨晩、NHK-BSプレミアムで、「密着!秋元康2160時間 エンターテインメントは眠らない」という番組がありました。AKB48などのアイドルには全く興味がありませんが、彼のビジネス感覚には興味があったので、途中からですが観ました。予想に違わず刺激的な内容でした。

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驚くほどの数の楽曲とプロモーションビデオ(PV)を、超短期間で製作し続けるそのエネルギーと仕掛けは興味深いものでした。消費者(ファン)の欲望を加速度的に膨らませるための、秋元と多くのスタッフのぎりぎりの努力が描かれています。

 

欲望を膨らませ続けるには、量とスピード、そして質の維持向上が不可欠です。特に質を維持向上させることは並大抵ではありません。そのために、秋元自身が質には一切妥協しない。また同様にスタッフにも厳しく質を求める。作曲家、アレンジャー、PVの監督といったクリエイターには、ドライで徹底した競争原理をはたらかせます。ダメだしも、ストレートな批判もぎりぎりまで繰り返される。

 

試写を秋元にみせる時の監督たちは、まるで判決を待つ被告のようです。このように秋元が関わるスタッフに厳しくあたるのは、プロとして彼ら彼女らを認めたいと考えているからではないでしょうか。

 

秋元が専門的教育も受けていない自分自身をプロだと認識できたのは、美空ひばりから歌詞を依頼され、「川の流れのように」を提供できたときだそうです。あのプロ中のプロ美空ひばりに選ばれ満足してもらえたのだから、やっと自分も作詞家としてプロになれた気がする、だから自分の肩書きはひばりに認めてもらった「作詞家」にこだわる、と語る秋元は謙虚に見えました。そういう関係をスタッフと築きたいのかもしれません。

 

普通では考えられないスケジュールで質の高い作品が量産されるのは、関わるスタッフが一流のプロばかりだからでしょうが、彼らがそこまで秋元についていくのは、それによって自分達がさらに高みへ行ける、世俗的な成功だけでなくクリエイターとしての能力を秋元が引き出してくれることがわかっているからのように見えました。そう思えなければ、あんな修羅場を続けることは不可能でしょう。素晴らしい秋元ならではのリーダーシップです。

 

秋元は、ロンドンで現在大人気のエンタテイメントの演出家(その名前も団体名も失念!)に自分が手がけようとしているミュージカルの演出を依頼するためロンドンで彼と対面しました。演出家は秋元の力量を認めた上でこう言います。

「私と仕事をするのはリスクがあることを認識してほしい。私は、常に新しいものを創り続けたいんだ」

 

つまり解釈するに、自分は商業的成功を目指しているのではなく、新しものを創造したいのだ、だから私の自由にやらせてくれなければやる意味はない、ということでしょう。

 

それに秋元はこう応えました。(うろ覚えですが)

「私にもこだわりがある。では、こうしよう。ある案に対して、あなたの意見と私の意見が合わなければ、その案は却下して別の案を探そう」

 

両者が合意できる案を徹底的に追及しようということです。これはなかなか言える台詞ではありません。どちらかが妥協することはせず、両者が納得するまで別の案を創造し続けるということですから。芸術の世界ならまだしも、ビジネスの世界では普通ありえません。質への執着と、創造への絶対の自信。演出家は、「いいでしょう」とあっさりうなずきました。こちらも大したものです。

 

創造性を最重視するビジネスを考える上で、秋元の方法論は 非常に参考になります。彼が作ったシステムやリーダーシップスタイルなどが、これからどう展開していくのか、注目していきたいと思います。

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このページは、福澤が2013年2月12日 16:53に書いたブログ記事です。

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