自分では無理だと思っていることを、何とか変えられるのではないか、と気づかせることはとても重要ですが難しいことです。でも、決して不可能ではありません。ポイントは、「自分では」を「我々なら」に転換することだと、先日ご紹介した「社会を変えるには」(小熊英二著)を読んで気づきました。
10/1に「チャンスをつかむ人とそうでない人」を書きました。その会社は、長期的な経営環境は非常に厳しいのですが、目先利益は出ているため、社員に危機感はあまりない。そのことに危機感を抱いた社長の意図を汲んで、事業部門長を対象としたワークショップを実施し、危機感の醸成を狙ったのです。
ワークショップでは、先に書いたようにメンバー全員が前向きだったわけではありませんでしたが、終了後にふたつの宿題を課しました。
ひとつは、ワークショップでも議論した、「当社の目指すべき10年後の姿とそこに至るステップ」を、各グループ(3グループあります)でブラッシュアップすること。二つ目は、「そのために自部門がやることと、自分自身がやること」です。このふたつを提出してもらいます。それを、グループごとに社長との対話の時間を設け、発表し対話することにしたのです。もちろん社長には事前に発表内容に目を通しておいていただきます。
先日、三回の対話セッション(社長との朝食会の仕立て)が終了しました。社長には、皆一生懸命考えてくれた、と大変喜んでいただきました。さらに、12月に開催予定の役員会で3グループとも発表するようにとの指示。収支の数字をもう少し詳しく入れて欲しいとの追加注文が付きましたが。
このワークショップの企画運営責任者である教育研修部長は、こう私にメールをくれました。
「厳しい環境にあることを認識し、対策を考えることでモチベーションはあがるものなのだと思いました」
厳しい現実を直視することはつらいことです。直視した結果、やる気がそがれることもあり得ます。それを経営としてどう扱うかは、難しいところです。
しかし、皆現実には気づいているのです。ただ、「自分」としてどうすればいいかわからない。だから見えないふりをすることもあるでしょう。そこに問題があります。やはり、経営に近い階層のリーダーには直視させるべきです。ただし、孤立させない。他のリーダーも同じような悩みを抱えていることに気づかせ、自分だけでなく「我々で」打開策を考える、そういうふうにもっていくことが大切です。そして、その成果をトップが正面から受け止める。それによって、彼ら彼女らのモチベーションは確実に向上します。
損益責任に縛られ、ばらばらになりがちの部門長らに、「我々」意識を持たせることで、重たい歯車が回っていくのです。
イノベーター(革新者)とアーリーアダプター(初期採用者)が16%を超えると、爆発的に普及が拡大するというマーケティング理論があります。組織もそれと同じで、こういった「我々」を組織の中で増やしていき、全社員の16%にまで達すると、爆発的に変化が起こるかもしれません。
地道にばらばらな「個」をつないで「我々」をつくり上げ、16%にまでそれを増やすことで重たい粘土層も溶解して、大きな変化が起こる事例はたくさんあります。決してあきらめる必要はありません。
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