日本企業の人的強みは、リーダーにあるのではなく一般社員にあるということは、もはや定説になっています。だからトップと新入社員の年収格差が、欧米企業に比べても小さいのです。
では、成功している企業とそうでない企業の差は、社員の能力レベルの違によるのでしょうか?そうではありません。日本人社員の潜在能力の差は、他国に比べて著しく小さい、これも定説です。つまり、入社してくる社員の潜在能力に大して差はない。もちろん学歴もです。私は数多くの企業の人材開発に関わる中で、確信を持ちました。学歴と発揮能力との相関は、さほど大きくない。
でも、企業間には歴然と組織能力の差はあります。その要因は何か。ひとつには、実行する仕組みが整っているかどうかだと考えます。トヨタにも日産にも、京セラにも、ユニチャームにも、独自の実行の仕組みがあります。優良といわれる企業は、なんかの独自の仕組みがあると推測します。それは、公開しているケースがほとんどですが、他社がそのまま真似することは不可能です。トヨタは、啓蒙するためのコンサル会社までつくっていますが、追いつく企業はありません。
さて、無印良品を展開する良品計画の松井忠三会長が、「無印良品は、仕組みが9割」(角川書店)という本を書きました。まさに、私の仮説を裏付ける素晴らしい本です。しかも、執筆はコンサルタントや業務改革担当などではなく、会長(前社長)みずからです。巷に溢れるビジネスのノウハウではなく、経営の根幹に関わることだからこそ、会長が書いたはずです。そこがこの本のユニークな点です。
では、松田会長の言う仕組みとは何でしょうか。本文にこうあります。
「努力を成果に結び付ける仕組み」「経験と勘を蓄積する仕組み」「ムダを徹底的に省く仕組み」
仕組みとは、組織の根幹にあたるものです。これがしっかり築けていないと、いくらリストラしたところで、不振の根本原因は取り除けず、企業は衰退してしまいます。
さらに、リーダーの役割を、「努力をすれば結果を出せる仕組みを考えること」と断じています。その通りですね。いかに、部下に無駄な努力をさせることに汲々としているリーダーが多いことか。また、率先垂範は、形としては美しいかもしれませんが、現在の経営環境では、それでは部下はついてきません。リーダーは、部下ができないことをやるからリスペクトされて、リーダーと認められるのです。
ところで、当社の仕組みのひとつが、MUJIGRAMというマニュアルです。マニュアルというと、本部から通達される固定的で融通が利かないものというイメージがありますが、そうではありません。MUJIGRAMは、進化する事を前提しており、その進化を促すのは社員ひとり一人。つまり、従うマニュアルというよりは、つくり上げるマニュアルなのです。これによって、社員の力を組織に動員できる仕組みになっています。当然、社員のモチベーションも向上します。なんのことはない、全員参加型の改善活動です。
松田会長はこうも書いています。
マニュアルは、業務を標準化した手順書であるだけではなく、社風やそれぞれのチームの理念とも結びついています。マニュアルがこの二つの架け橋としての役割を担っているといってもいいでしょう。
ですから、マニュアルは時間がかかったとしても、自分達の手で一からつくり上げていくしかないのです。
製造現場における仕組化や改善活動は生産性を上げ、日本の製造業を強くすることに大いに貢献しました。しかし、ホワイトカラーの生産性は先進国中最下位ともいわれています。その理由は、ホワイトカラー向け業務の仕組み化が遅れていることにあるのではないでしょうか。製造現場では聞かれなくなった、勘や気合という言葉が、未だにオフィス内や営業現場からは聞こえてきます。ある経営者が、こうおしゃっていました。「製造現場で生産性を10%上げるのは至難の業だが、ホワイトカラーの生産性を10%上げるのはわけない」
手間を惜しまず、自社ならではの仕組みを時間をかけてつくり上げる、そこに元気のない企業の活性化のヒントがあるようにおもいます。ただ、間違ってもコンサルタントに丸投げしないように・・・。
松井 忠三
