経営者候補に対する研修をお手伝いさせていただくことがよくありますが、これは非常に難しい。当たり前ですが、目指すべき経営者像は企業によってばらばらです。(もし同じだったらそれはおかしい)
ただ、自社のそれを自覚している担当者はそれほど多くはありません。まず、それを引っ張りだすことから始めなければなりません。
とはいえ、普遍的な大きな軸はありそうです。一つは、普遍的科学的なスキルを持つ経営者像。もうひとつは、人間理解に長けた経営者像。
この2軸が交差したところに、その企業が目指す経営者像がありそうです。そして、それに従って、育成手法も検討されることになります。前者を科学的アプローチ、後者を人間的アプローチと仮に呼びましょう。
科学的アプローチはわかりやすいですね。経営には公式がある。その公式を適切に使えば、いい経営ができる。極端に言えばこんな思想に基づいています。誤解を恐れずに言えば、MBA的アプローチです。
後者はなんとなく日本的。人間力とか人徳を持つリーダーが日本では好まれる。名著「タテ社会の人間関係」(中根千枝著)にこうあります。
タテ社会の人間関係 (講談社現代新書 105)中根 千枝

親分は、むしろ天才でないほうがよい。彼自身頭が切れすぎたり、器用で仕事ができすぎるということは、下の者、子分にとって彼らの存在理由を減少させることになる、かえって疎まれる結果となる。子分は親分に依存すると同時に、親分が子分に依存することをつねに望んでいる。(中略)
天才的な能力よりも、人間に対する理解力、包容力をもつということが、何よりも日本社会におけるリーダーの資格である。
こういうリーダー、経営者は育成できるのでしょうか?つまり、人間に対する理解力や包容力をいかに身につけるか。もちろん、研修で簡単に身に付くものではありません。
様々な人との関係性を経験することで、時間をかけて育まれるものだと思います。ただ、同じような経験を同じだけしたとしても、その結果の差には大きなものがある。それはなぜか?
経営者を植物に例えれば、同じような場所に植えても成長に差がつくということです。もちろん種の質にまったく差がないとはいえませんが、それほど大きくはない。
一つは根の張り方の違いではないでしょうか。大きく成長する植物は、それだけ広く深い地下に根を張りあらゆる養分をたくさん吸収する。そういう根を持つ人間は、広く深い教養をもっている。
そして、根を伸ばす原動力は、人間や世界に対する好奇心や何でも疑問を持つこと、常識に囚われず自分の五感で試し、自分の頭で思考し感じる姿勢だと思います。それらがあれば、広く根を伸ばしそこから吸収し続けることができる。
その結果、教養が身に付くのです。教養とは、学歴だとか生まれの良さとは直接関係ありません。(寅さんは最高の教養人だと私は思います)
このような根を張った植物に日光を与えれば、たくさんの葉っぱが生え光合成が盛んになる。葉っぱは経営者にとっての「科学的スキル」なのかもしれません。
つい目に付きやすい葉や、測りやすい水や日光に目をやりがちですが、根にもっと着目すべきではないでしょうか。根たる教養は意思決定にも大きな影響を与えます。
最後に、本田宗一郎の言葉をふたつ。
「私たちの会社が一番大切にしているのは技術じゃない。技術よりも、まず第一に大事にしなければならないのは、人間の思想だと思う」(本田宗一郎)
「哲学のない人は経営をやることができない。機械には燃料と潤滑油を与えれば動くが、哲学のない経営者のもとでは、人はよく動かないからだ。(中略)経営者は、それぞれの哲学をもって判断を繰り返している」(本田宗一郎)
